訪日動向から中国の景気を占う
訪日客の増加は、中国が経済成長して国民が着実に富裕化している表れと解釈するほかありません。訪日客の増加は日本経済にとってもプラスになりますし、なによりも日本を旅行した中国人たちは日本に好印象を持って帰ることが多いですから、その積み重ねが日中関係にも好影響をもたらすことが期待できます。
このように中国からの訪日客の増加は私にはいいことづくめのように思えるのですが、しばらく前に私のところに取材に来た日本の某テレビ局のスタッフたちは、中国人たちが日本で「爆買い」するため中国ではモノが売れなくなって不況にますます拍車がかかるのではないか、と言っていました。誰に吹き込まれたのかわかりませんが、どんなにいいニュースにもネガティブな解釈をひねり出すその才能にはほとほと感心させられました。
いうまでもなく、500万人は中国の人口の270分の1にすぎませんから、その人たちが日本でたかだか数十万円使うことによる中国経済にとっての機会損失はゼロではないにしてもほとんど無視していいほどの金額です。
これはモルガン・スタンレーMUFG証券のレポートから学んだことなのですが、ある国が豊かになるにつれて、その国の国民のうち海外旅行に出かける人の割合が増えていきます。日本でこの法則が成り立っていることを図1を使って説明しましょう。
図1では日本の米ドル換算の1人あたりGDPと、出国日本人数を総人口で割った値とを比べたものです。日本国内で消費する限りは、日本円で計算した1人あたりGDPが日本の豊かさを表す指標ということになりますが、海外旅行で使うのは米ドルなどの外貨ですから、米ドルで測った時の1人あたりGDPが外国から見た日本人の平均的な豊かさということになります。
図1で示したように、米ドル換算の一人あたりGDPと、出国する日本人の割合という二つの線は多少のズレは伴いながらもほぼ同じように動いています。ここからわかることは海外旅行に行く人の割合は1996年までまっすぐ増加し、それ以降は上下動を伴いながらもほぼ横ばいになっていることです。
アベノミクスは日本人を貧しくした
一般の理解では日本のバブル経済は1991年に終わり、その後は経済の停滞が続いているとされていますが、実は日本人の富裕化の物語はバブル崩壊後も1996年まで続いていたのです。なぜかと言えば、バブル崩壊後も円高が進展したので、米ドル換算の1人あたりGDPが1995年まで急上昇を続けたからです。最近の動きをみると、2013年以降はアベノミクスによる円安のためドル換算の1人あたりGDPが急減していますが、出国する人の割合もこれと軌を一にして減少しています。つまり、海外旅行という観点から言えばアベノミクスは日本人を貧しくしました。
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