コラム

訪日動向から中国の景気を占う

2015年10月27日(火)17時00分

 米ドル換算の1人あたりGDPと出国者数との間の密接な関係は中国においても見られます。図2は1999年から2014年までの実績と、2015年の予測とを示したものです。中国でも米ドル換算の1人あたりGDPと出国する人の割合とは見事な一致を示しています。2014年に中国の出国者数は初めて1億人の大台に乗りました。その年に241万人の中国人が日本に入国しているので全体の2%強が日本に来たことになります。もし2015年に500万人が日本に来るとすれば、出国者数に占める割合は4.5%となります。

 今後、中国から日本にどれぐらいの旅行客が来るかを予測してみましょう。まず、今後の中国の経済成長率と人口推移に関する予測から1人あたりGDPがどのように伸びるかを予測します。2015年のGDP成長率は10月6日付の本コラムで紹介した私の推計値5.3%を使い、2016年も同様の困難が続くと考えて5.5%としていますが、その後は7%前後の成長軌道に戻り、2020年以降は6.5~6.3%へ徐々に成長率が下がっていく仮定しています。こうして予測した1人あたりGDPと、これまでの出国者数との関係を利用して、将来の海外旅行者数を予測しますと、出国者数は2015年には約1億1000万人であるのが2025年にはほぼ倍増して年2億人を超えます。そのうち日本に来る割合については、今後日本政府が中国人に対するビザ取得要件をもう少し緩和する可能性を考えて5%とします。すると、中国から日本に来る旅行客数は2020年には755万人、2025年には1028万人、2030年には1392万人となります。

 ただ、2012年に日本政府が尖閣諸島を国有化した後、しばらくの間、中国から政府関係者のみならず学者の訪日までもが激減したことを考えると、日中関係の動向によって訪日客数が変動する可能性がないとは言えません。もっとも、今年9月3日に抗日戦争勝利70周年の軍事パレードが行われた時も、休日になったからと日本へ遊びに行った人が多かったそうです。中国政府の日本に対する姿勢と、庶民の海外旅行とはさほど連動しないようです。潜在的なリスクとして考えておいたほうがいいのは、むしろ日本側で中国からの旅行客ばかり多くなることに対する反発が起きる可能性です。現に香港では今年2月に中国人旅行客が「大陸へ帰れ」と嫌がらせされる事件が起き、その影響で大陸から香港へ行く旅行客が激減しました。

 今年は中国からの訪日客が増加しているばかりでなく、韓国、台湾、香港などアジアの他の地域からの訪日客も昨年より大幅に伸びていますので、2020年に2000万人という日本政府の目標が5年前倒しで達成される可能性も出てきました。おそらく「爆買い」のような消費行動は同じ人が海外旅行を重ねるにつれて徐々に収まってくるとは思いますが、それにしても訪日旅行客は今の日本では数少ない「成長産業」です。ホテルなど日本の旅行業界の皆さんにはぜひこのチャンスを逃さないようにしていただきたいと思います。

marukawa151026-graph02.jpg


<筆者の最近の記事>
「李克強指数」が使えないわけ
中国の成長率は本当は何パーセントなのか?

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米共和党、大統領のフィリバスター廃止要求に異例の拒

ワールド

トランプ氏「南アG20に属すべきでない」、今月の首

ワールド

トランプ氏、米中ロで非核化に取り組む可能性に言及 

ワールド

ハマス、人質遺体の返還継続 イスラエル軍のガザ攻撃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇の理由とは?
  • 4
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 8
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story