「李克強指数」が使えないわけ
要するに「李克強指数」は鉱業や国有重工業の動向を探るには役に立つかもしれませんが、中国経済全体をこれで見ようというのは無理があるのです。
こういうと次のような反論が返ってきそうです。「でも李克強が参照しているのだろ。『李克強指数』などナンセンスだということは、それを見ている李克強首相はバカだといいたいのか。」
そうではありません。前の部分をもう一度読んでください。李克強氏は遼寧省トップだった時代に、遼寧省の経済状況を知るための手段として3つの指標を挙げたのです。遼寧省は石炭の有力な産地ですし、石炭と鉄鉱石を大量に使用する鉄鋼業などの重厚長大型産業が盛んな地域でもあります。だから「李克強指数」は遼寧省の経済状況を知るうえではある程度の有効性があります。しかし中国全体の経済動向をこれで見るのは無理です。首相になってからの李克強は当然違う数字を見ているはずです。
成長率は目標の7.0%を下回って現状はやや厳しい、という程度
さて、2015年上半期のGDP成長率は過大報告らしいとしても、いったいいつからおかしくなったのでしょうか。私は数年前からどうも中国のGDP成長率の動きが小さすぎることが気になってきました。2012年7.7%、2013年7.7%、2014年7.3%、2015年上半期7.0%と、年単位でみても動きが小さいですし、四半期単位でも0.1%程度の変化しかありません。日本のGDP成長率が2013年度は2.1%、2014年度はマイナス0.9%と激しく動いているのとは対照的です。
最近の中国ではGDP成長率がわずか0.1%下がっただけで景気が悪くなったような言われ方がされます。この流れで行くと、おそらく2015年通年のGDP成長率の公式発表は6.8%か6.9%になるでしょう。これは本当にその水準にあるというよりも、「目標の7.0%を下回って状況はやや厳しい」というメッセージを数字で表現したもの、と解釈すべきなのです。
もっとも、最近の中国のGDP成長率は過大評価かもしれませんが、他方で私は中国のGDP統計では民間企業のダイナミズムが十分にとらえられていないのではないかとも思っています。そういう思いをますます強くした最近のエピソードをご紹介します。
9月上旬に私はある地方で衛生陶器関連のメーカー7社を訪問しました。すべて民間企業です。企業の規模をつかみたいと思って、年間の生産額だとか生産量を尋ねますと、答えるのを嫌がったり、教えてあげるけど他に漏らさないでね、といくつかの会社で言われました。彼らは経営状況が悪いから答えたくないのではありません。工場見学もしましたが、昨今の景気減速のなかでも高い工場稼働率を維持しているようです。要するに、彼らは当局に対して売上額や利益額を少なく報告して節税しているので、本当は生産がもっと多いことを知られたくないのです。
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