コラム

シャープのV字回復は本物か? IoT企業への変革は成功するか?

2017年05月16日(火)16時34分

米国を代表する製造業の1社であり、米国においてインダストリアルIoTの代名詞の1社ともなっているGEでは、Genevaというアマゾン・アレクサ対応システムを組み込んだIoT家電をすでに数多く商品化している。GEのWebサイトでも、アマゾン・アレクサとのタイアップを強調した上で、コーヒーメーカー、オーブンなど様々な商品が紹介されている。

アマゾン・エコーやアマゾン・アレクサは、IoTのプラットフォームとして、すでに競合より一歩進んだ地位を固めている状況にあるのだ。

【参考記事】アマゾン・エコー vs LINEクローバの戦いはこうなる

シャープの業態変革を待ちうけるプラットフォーム競争

ドイツと米国の事例からまず始めに示唆されるのは、シャープが家電メーカーからIoT企業へと業態変革を実現していくためには、競合メーカーをも巻き込んで自社の技術を統一規格にまで高めていくこと、さらには消費者や異業種・多業種のサービス提供企業をも巻き込んでプラットフォームを創造していくことが必要だということである。

シャープが商品化を進めているホームアシスタントについては、同社ではオープンプラットフォームとして他社にも開かれたものにしていく方針を打ち出している。

もっとも、いかに形式的にオープンプラットフォームであることを謳ったとしても、実体的に消費者やサービス提供企業を巻き込む方向性やビジョンが見えてくるわけではない。ハードとしての家電自体の付加価値が他の家電とリンクして稼動するというだけでは、消費者の経験価値を高めるのには圧倒的に迫力不足だろう。

ユーザーの経験価値が高まり、多くのユーザーを引き寄せるものにならなければ、多くのサービス提供企業を引き寄せることは困難だ。さらには多くのサービス提供企業が魅力的なサービスを当該プラットフォームで提供するようにならなければ、ユーザーの経験価値もまた高まらないだろう。

アマゾン・エコーは、音楽を聴き、ニュースを聞き、アマゾンで商品を注文し、スターバックスやウーバーなど数多くの異業種のサービス提供を受けられるプラットフォームとなっていること、さらにはアマゾンのビジネスモデルのなかにはEC、クラウドコンピューティング、音声認識システム、AI、ロジスティックのノウハウなど、これまで同社が様々な事業で蓄積してきた知見が結集されていることを強調しておきたい。

2番目に指摘したいのは、IoT分野におけるプラットフォームを実現していくのは容易ではないなかで、プラットフォームを実現しつつあるメガテック企業といかに競争や協業をしていくのかということである。

スマートホームのプラットフォームを目指しているのは、アマゾン・エコーだけではない。グーグルがグーグル・ホームで、LINEもClovaで、このポジション獲得を狙っている。

このようななかで、シャープは本当に自らプラットフォーム実現を目指すのか、アマゾンやグーグル等の企業と協業し、IoT家電というハードに特化し、差別化された商品を提供することに特化するのか、できるだけ早期のうちに判断するべきであろう。

【参考記事】LINEのAIプラットフォーム「Clova」の何がすごいのか解説しよう

プラットフォーム競争に敗れたとき、商品が一気に経済的に陳腐化するリスクは大きい。「IoTといえば家電」と言われたタイミングはすでに過ぎ去り、今やより多くのものがIoTでつながる時代へと変貌を遂げている。優れた家電商品を開発してきたシャープとしては、メガテック企業と協業し、差別化されたハードにこだわるというのも、より現実的な戦略の一つだろう。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電

ワールド

中国、海南島で自由貿易実験開始 中堅国並み1130

ワールド

米主要産油3州、第4四半期の石油・ガス生産量は横ば

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story