コラム

シャープのV字回復は本物か? IoT企業への変革は成功するか?

2017年05月16日(火)16時34分

家電IoTで先行するドイツ・アメリカ企業の動向

日本のIoT家電においては競合他社に先行しているように見えるシャープではあるが、同社のIoT企業への業態変革の成否を占う上でも、欧米企業の動向分析は極めて重要であろう。

IoT企業として見逃せないのは、国を挙げて第4次産業革命に取り組んでいるドイツ企業の動向である。ドイツでは主にB2Bの分野において企業や工場がバリューチェーンの各要素やデータなどを共有し合い、IoT時代をリードしようと躍起になっている。B2Cや、さらにはIoT家電においても最も先行した動きを見せているのがドイツなのだ。

同国の第4次産業革命の中心的な存在でもあるシーメンスは、競合メーカーでもあるボッシュとともにIoT家電の統一規格となるHome Connectをオープン化している。Home Connectでは、家電の種類ごとに各種の基準を定めており、同基準に沿った商品であれば統一されたモバイルアプリによって一元的に商品を稼動させることができるようになっている。

シーメンスやボッシュのWebサイトを見ると、Home Connectに準拠したIoT家電が冷蔵庫・洗濯機・乾燥機・オーブンなど様々な商品カテゴリーにおいて実用化されていることがわかる。同じ国の強力な競合同士が手を組んでIoTの統一規格を作り上げているというのが大きな注目点である。

【参考記事】ドイツ発「インダストリー4.0」が製造業を変える

IoT家電、あるいはスマートホームを分析する上でも、ドイツと並ぶIoT先進国である米国の動向を見ることは不可欠だろう。ここでは製造業側のプレイヤーではなくネット側のプレイヤーであるアマゾンの動向を取り上げたい。

アマゾンは同社の音声認識AIであるアマゾン・アレクサを搭載した「スピーカー」であるアマゾン・エコーをすでに500万台以上発売している。

アマゾン・エコー最大の特徴は、筒型のスピーカーであるこの商品に対して「ただ話しかけるだけ」で操作が完了するという簡便さにある。「ただ話しかけるだけ」で、質問に答えてくれる、音楽を流してくれる、アマゾンでの買い物にも対応してくれる、対応するIoT家電のスイッチを入れてくれる、などの操作をしてくれるのだ。

また、「スキル」という拡張機能をアマゾン・エコーに追加すると、提携している企業の商品・サービスが連携して提供されることも次代のプラットフォームと目される大きな理由である。すでにスターバックスやウーバーなどがサービスを開始しており、1万以上もの「スキル」がアマゾン・エコーから提供されている。

さらに音声アシスタントAIであるアレクサが注目されているのは、アマゾン自身が「アマゾン・エコーはアレクサ搭載商品の第1弾に過ぎない」と発表していることに加えて、多くの企業がアレクサ搭載の家電商品を計画していることである。

実際に、米国最大の家電ショーであるCESにおいては、700にも及ぶアレクサ搭載IoT家電が多くのメーカーから出品されている。「第4次産業革命」大国のドイツでは競合メーカー同士が手を組んでいるのに対して、「IoT」大国の米国ではメーカーとネット企業が手を組んでいることが注目される。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カーニー加首相、トランプ氏の自動車関税発言を批判 

ビジネス

第一三共、26年3月期の営業益5.4%増を予想 市

ビジネス

デンソー、今期営業益30%増と過去最高予想 関税影

ビジネス

第一三共、発行済み株式の4.29%・2000億円上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story