コラム

決断が日本より早い中国、でも「プチ大躍進」が悲劇を生んでいる

2017年12月23日(土)19時38分

新しく設置された天然ガス管の下に石炭が積み上げられている(河北省の村、12月5日) Thomas Peter-REUTERS

<日本は遅いが、中国は早い。中国北部の冬の名物といえば「PM2.5」だったが、先日訪れた北京には青空が広がっていた。暖房を石炭から天然ガスへという政府の政策が早くも成果につながったようだったが......>

最近、月に1度は中国を訪問している私だが、冬の中国北部はどうも気が進まない。日本でもすっかり定着した言葉だが、「PM2.5」が辛いからだ。

中国では長江以北には「暖気」と呼ばれる集団暖房システムが導入されている。一種のセントラルヒーティングで、街区ごとにボイラーがあり、個々の住宅にお湯を流すことによって暖房にするというシステムだ。

そのボイラーは石炭を燃料としている。日本のような最新式の火力発電所ならば石炭を燃やしても大気汚染は少ないが、街の津々浦々にある旧式ボイラーに汚染防止策など望みようもない。かくして冬に中国北部を訪れると、凄まじい大気汚染に苦しむことになる。

まあ、これもビジネスだ、仕方がない。そう覚悟しつつ、マスクをポケットに詰め込んで飛行機に乗ったのだが、北京に着いて驚いた。なんと青空が広がっているではないか! 習近平政権は汚染対策を重要課題の1つとし、莫大な資金を注ぎ込んでいる。そのかいあってついに冬の北京に青空が戻ってきたのだ......。

lee171223-2.jpg

嬉しくなって、思わず北京の青空を撮ってしまった(京首都国際空港にて)

――という話だったならばステキなのだが、そんな単純な話ではない。

この1年、中国で猛烈な勢いで進行したのが「煤改気」、すなわち「石炭から天然ガスへの転換」。旧式ボイラーを破壊し、天然ガスを使うボイラーに転換するという政策だ。中国政府は各自治体に数値目標を課し、天然ガスへの転換を推進するよう指示した。

これが失敗の始まりだった。というのも数値目標ができた瞬間、「目標値を大きく上回る成果を上げてやろう」という地方官僚の功名心に火が付くからだ。かくして各地で天然ガスへの転換ブームが起きたのだが、その結果として天然ガス・ボイラーはあるが燃料となる天然ガスが不足している、旧式ボイラーを壊したはいいが新型の設置が間に合わなかったなどなどの馬鹿げた状況が生まれてしまった。

北京の空がきれいになったのは素晴らしいことだが、その空の下には石炭ボイラーを失ったのに天然ガスが手に入らずに凍えている住民が多数いたというわけだ。

「スラム再開発」「看板取り壊し」も批判を浴びた

中国では1958年から始まった大躍進政策が、史上空前の大失政として知られている。欧米を追い抜けとばかりに鉄鋼生産量や穀物生産量で過大な数値目標を課したところ、無謀な取り組みや虚偽の報告が横行し、経済が麻痺してしまった。大躍進政策が行われた3年間で、餓死者数は4000万人に達するとの推計もあるほどだ。

大変な悲劇だが、中国ではその後もさまざまな「プチ大躍進」が繰り返されている。今回の天然ガス大躍進もその1つだ。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

乳児ボツリヌス症の集団感染、バイハート社の粉ミルク

ワールド

北朝鮮抑止「韓国が主な責任」、米国防総省が関与縮小

ワールド

トランプ政権のEVインフラ助成金停止は違法、米地裁

ワールド

加州がWHO感染症対応ネットワークに加盟、米の正式
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 8
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 9
    湿疹がずっと直らなかった女性、病院で告げられた「…
  • 10
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 10
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story