コラム

福島の現状を知らない中国人に向けてVICEで記事を書いた

2017年05月25日(木)16時28分

私が福島県で訪問したのは福島市の県観光交流局観光交流課、今年4月に全町避難指示が解除された富岡町、そして郡山市の福島県農業総合センターの3カ所。

風評被害を払拭したいという気持ちが強いが、私はジャーナリストだ。真実をゆがめることはできない。いい話も悪い話もすべて書く。道路脇にある放射線モニタリングポスト、福島原発近くを行き来する汚染土を運ぶトラック、いまだに観光客が集まらない桜のトンネルなど、事故の傷跡についても率直に記した。

その一方で中国の人々が知らないであろうこと、そして知るべきことについてもしっかりと書いた。第一に、福島県の大きさだ。同県の面積は日本の都道府県の第3位である。日本の地理を知らない中国人は福島県全域が原発のすぐそばだと勘違いしているが、現実とはかけ離れている。

第二に、食品安全を確保するために大変な資金と労力とが導入されていることを伝えたかった。福島県農業総合センターでは検査施設内部の取材が認められたが、米国から輸入された最新鋭の検査機器が立ち並ぶさまは圧巻だった。すべての食品は厳格に検査され、異常があれば出荷は認められない。

日本人らしい細やかな対応によって、最大限に安全が確保されていた。私の知る限り、中国にはこのレベルの検査施設は存在していないはずだ。PM2.5や重金属などの公害と食品汚染に苦しむ中国にこそ、必要な施設のようにも思われるのだが。

【参考記事】「日本の汚染食品」告発は誤報、中国官制メディアは基本を怠った

福島県が食品安全に費やしている努力に驚く読者

記事の公開後、中国の若き読者たちからどのような反応が返ってくるのか、楽しみだった。激しい批判が浴びせられる可能性もあると覚悟していたが、蓋を開けてみると、記事を称賛する反応が大半を占めた。やはり彼らは生の情報、真実を求めていたのだ。

もちろん、私の記事は嘘っぱちだと言いがかりをつけてくる者もゼロではない。だが私はすべての情報に根拠を示し、自ら撮影した写真を掲載している。反発した人も圧倒的なファクトの前には何も言えなかったのではないか。

また、福島県が食品安全のために費やしている努力に驚き、称賛する者も少なくなかった。たんに日本の努力を知っただけではなく、中国がいかにあるべきかを考えるヒントとしても受け止められたようだ。

しかし、大きな反響を呼んだとはいえ、中国の人口13億人のごくごく一部が目にしたに過ぎない。それでも私は今後ともこうした努力を続けていきたい。振り返れば福島原発問題を取材し、風評被害を解消できないかと考え抜いたことが、私が政治家を目指すきっかけとなった。今後も私は福島を繰り返し訪れることになるだろう。

【参考記事】Picture Power忘れられる「フクシマ」、変わりゆく「福島」



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>


プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国、和平合意迫るためウクライナに圧力 情報・武器

ビジネス

米FRB、インフレリスクなく「短期的に」利下げ可能

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story