コラム

規制緩和の進む電動キックボード、「二輪」よりも日本に必要なのは

2022年02月16日(水)14時50分

道路の使い方については、2016年に成立した自転車活用推進法のもと、自転車政策が中心となって行われている。青色の自転車専用道や矢羽根が増えたのもそのためだ。都内では車線が多かったり、車幅が広いため、幅の広い自転車通行空間が作られているが、そこに駐停車するクルマが非常に多く、円滑な走行が難しく危険を感じることもある。

筆者も都内を運転する際にやむなく停車する場合もあるし、駐車場が高いという理由もある。大切なことは、駐停車することも踏まえて、歩道、駐停車場所、自転車通行空間、自動車走行空間をつくるかという点だ。欧州では、自転車走行空間を思い切って道の中央に設けている所もある。

現状の都内の道路を見る限りでは、ガイドラインに則って車道の左側にとりあえず作ったものが多く、まだまだ工夫の必要がある。東京都の道路管理者、国道事務所、警視庁などには知恵を出し合ってほしい。

kusuda220216_3.jpg

ウィーンの自転車専用レーン 筆者撮影

普及には時間がかかる

カーシェアや自転車シェア事業を長年取材してきたが、モビリティサービスの普及は簡単なことではない。

全国に駐車場を展開するパーク24のカーシェア事業は大規模に展開しているものの長く赤字が続き、自転車シェアを展開するドコモ・バイクシェアやソフトバンクグループのOpenStreetは自治体の補助金やサポートが必要だった。利用者数が伸びてスケールしても、再配置など運用費の問題があって事業継続が危ぶまれるケースも多い。また中国からofo(オッフォ)やMobike(モバイク)の自転車シェアサービスの事業者が参入したが撤退している。

自転車シェアですら2010年頃から政策的に後押しされて「シェアサイクルの在り方検討委員会」が立ち上がるなど、ようやく都市部の公共交通的な存在として認められつつあるところだ。電動キックボードシェアは今後どのような位置づけになるのだろうか。一時的なブームで終わってほしくない。

電動キックボードの「次」に期待

筆者が期待するのは、二輪の電動キックボードのさらに次の展開だ。

長年免許の要らないパーソナルモビリティについて取材をしてきたが、公共交通のネットワークが弱い地域に住む高齢者には移動手段がないのが実情だ。こうした高齢者の利用できる移動手段が待ち望まれている。

身体機能が低下した人にとって自転車は危なく、現状ではハンドル形電動車いす(シニアカー)やジョイスティック形電動車いすが選択肢としてあるが時速6キロまでしか出ないため遅すぎる。

大きなクルマを運転するのが億くうになってきた高齢者向けに期待されているのが、四輪の超小型モビリティだ。トヨタ自動車が「C+pod(シーポット)」を販売開始して話題となったが、メーカー希望小売価格で170万円を超え、価格がネックとなり、全国的に普及するとは考えにくい。

Luupは高齢者向けの四輪の電動キックボードを見据えている。現在の電動キックボードは二輪で元気な若者をターゲットしているが、高齢者も乗れるマイクロモビリティの議論へと早くシフトしてほしいものだ。

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story