コラム

パラリンピックが日本にもたらしたバリアフリー化の機運

2021年08月27日(金)19時40分
東京パラリンピック開会式

東京パラリンピック開会式で聖火台に点火する森崎可林(左、パラパワーリフティング)、上地結衣(中央、車いすテニス)、内田峻介(右、ボッチャ)の3選手(8月24日) Marko Djurica-REUTERS

<鉄道駅の段差解消、ユニバーサルデザインタクシーの登場──日本の公共交通の体質は20年間でどう変わったのか。パラリンピックの恩恵とは>

「日本のバリアフリーはまだまだ」

そんな声をよく耳にする。欧米に渡航する機会の多い筆者もそう思う一人だ。しかし頭ごなしに否定してしたことを最近では反省もしている。課題は山積しているが、バリアフリーが急ピッチで進められているとも感じるからだ。

コロナ禍で減速してしまったが、東京オリンピック・パラリンピックを契機にバリアフリーを進めようというムーブメントが公共交通で大きくなった。

セダンタイプが主流で障害者に対する理解に欠けたタクシーは、ユニバーサルデザインタクシーの登場と普及、セットで推進された乗降介助や障害者理解の取り組みにより、高齢者や障害者の生活をサポートする公共交通へと体質を変えていこうとしている。

欧米では、車いす利用者であっても一人で街の中を自由に移動しているシーンをよく目にする。大きな車いすであっても公共交通を利用できて、障害が出掛けない理由にはなっていないように思えた。一方、日本では東京ですら車いす利用者が電車に乗る際には駅員の介助が必要で、車いすでの活動範囲が限定されていることをどうしても感じてしまう。

ところが、東海道新幹線やJR山手線のプラットフォームのホームドアと床面が変わった。四角くピンク色に囲まれた青色の車いすのマークがつき、ホームと車両の隙間を一部狭くし始めたのだ。これにより、車いす利用者も一人で電車に乗り降りすることが可能となった。

kusuda210827_barrier-free2.jpg

東海道新幹線東京駅の床面 筆者撮影

できるだけ多くの乗客を乗せたいという思いからなかなか進まなかった新幹線でも、車いすのフリースペースを導入する動きが進んでいる。

このような公共交通のバリアフリーは、交通事業者の単独の取り組みではなく、公共交通機関の移動等円滑化整備ガイドライン(旅客施設編・車両等編)の改訂、「Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン」、改正バリアフリー法を受けて計画的に進められている。どれも公共交通の歴史的な変化にとって大きな意味を持っているのだ。

バリアフリーの対象駅は着実に拡大中

平成に入って10年が経とうとしていた1998年、最先端の環境が整備される新幹線のターミナル駅である東京駅ですらエレベーターがなかったという。もちろん日本のほとんどの駅にもエレベーターやエスカレーターがなかった。当時の鉄道関係者の意識として、駅のバリアフリー化は福祉事業で鉄道側が行うものではないとされていた。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米セントルイス連銀総裁、雇用にリスクなら今月の追加

ワールド

トランプ氏、ウクライナ大統領と会談 トマホーク供与

ワールド

米ロ結ぶ「プーチン—トランプ」トンネルをベーリング

ビジネス

米中分断、世界成長に打撃へ 長期的にGDP7%減も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 5
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 9
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story