コラム

現代の国家の安全を守るカギ...「海洋インフラ」の重要性と、勝利に不可欠な「非キネティック能力」とは

2024年04月27日(土)16時51分

そこで使われるのがサイバー工作である。金融データの多くを含むインターネット通信の97%は、海底ケーブルや洋上風力発電所(EUの北海における洋上風力発電所建設計画により、今後さらに増加する予定)を通過している。

世界では現在、海底に約140万kmのケーブルが敷設されおり、海底ケーブルは情報ハイウェイである。1年以上前には、ロシアとドイツを結ぶガスパイプラインノルド・ストリームや、バルト海東部のエネルギー関連施設やデータ接続施設などもサイバー工作で狙われている。西側でロシアなどのサイバー攻撃を監視している組織などによれば、こうした重要インフラをマッピングする政府系サイバー攻撃グループの活動も確認されている。

海底のパイプラインやケーブルへの関心を示すロシア

ノルウェー政府は、ロシアがこれまで、ソ連時代の海中における偵察や破壊工作能力の再構築に取り組んできたと指摘している。北海や北極海に海洋インフラを持つ国々は、ロシアが海底のパイプラインや海底ケーブルなどへの関心を示していることを警戒しており、北極地域海域の海底・海洋インフラを、監督して保護する方法を再確認する必要があると主張している。この問題は、ロシアからのガス供給がこのルートを経由するほかのヨーロッパ諸国にも波及す重大なリスクである。

中東でも、イランが支援するイエメンのフーシ派が紅海で攻撃などを成功させていることで、今後は、地中海やその他の海上交通路でも混乱が起きる可能性が高い。筆者が日本をはじめ世界中で展開しているサイバーセキュリティ企業Cyfirma(サイファーマ社)では、世界中の地政学的なサイバー攻撃情勢も監視しているが、フーシ派がヨーロッパとアジア間のデータ通信と金融通信のデータのほとんどすべてを運ぶ海底ケーブルを標的にしている可能性が高いと分析している。

また12月23日、イラン・イスラム革命防衛隊の司令官は、地中海やジブラルタル海峡などの閉鎖を狙っていると示唆して話題になった。しかし、イランは現実世界ではそこまでの攻撃能力を有していないため、サイバー能力で攻撃を行う可能性が指摘されている。

イランは2022年半ばからサイバー攻撃をこれまで以上に、急速に加速させている。最近の戦争ではイスラエルに対するサイバー作戦をさらに強化し、重要インフラを攻撃する能力を証明している。

アメリカにも攻撃を行っており、イラン人ハッカーらは、ペンシルベニア州の水道局が運営する水をコントロールする制御装置(PLC)を無効化することに成功している。このグループは、同時期にイスラエルの水処理ステーション10カ所も標的にしていた。

プロフィール

クマル・リテシュ

Kumar Ritesh イギリスのMI6(秘密情報部)で、サイバーインテリジェンスと対テロ部門の責任者として、サイバー戦の最前線で勤務。IBM研究所やコンサル会社PwCを経て、世界最大の鉱業会社BHPのサイバーセキュリティ最高責任者(CISO)を歴任。現在は、シンガポールに拠点を置くサイバーセキュリティ会社CYFIRMA(サイファーマ)の創設者兼CEOで、日本(東京都千代田区)、APAC(アジア太平洋)、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、アメリカでビジネスを展開している。公共部門と民間部門の両方で深いサイバーセキュリティの専門知識をもち、日本のサイバーセキュリティ環境の強化を目標のひとつに掲げている。
twitter.com/riteshcyber

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物5週間ぶり高値、トランプ氏のロシア・イラン

ビジネス

トランプ関税で目先景気後退入り想定せず=IMF専務

ビジネス

トランプ関税、国内企業に痛手なら再生支援の必要も=

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story