コラム

トランプが国民に銃を向ければアメリカは終わる

2020年06月04日(木)14時50分

米軍を抗議デモの鎮圧に使うことが引き起こすもう1つの深刻な問題は、武器の使用である。軍による武器の使用基準は、統合参謀本部の標準交戦規定によって定められる。軍の任務や訓練内容は州兵や警察と本質的に異なるが、一般的に国内の作戦に関する交戦規定は海外での作戦よりも厳格に武器の使用を制限している。このため、軍が市民に対して武器を使用するのはあくまで最後の手段である。「襲撃が銃撃につながる」というトランプの考えは、交戦規定違反となる。一方で、交戦規定は兵士や部隊の自衛権に関しては制限が緩くなる。仮に市民が武器を取り、軍と交戦状態になれば、事態の収拾がさらに難しくなることが懸念される。

奇しくも天安門事件から31年を迎えた週に、アメリカで軍が市民を弾圧する可能性が高まっている。アメリカが香港や新疆ウイグル、チベットでの人権侵害を非難する一方で、国内では人種問題をめぐる分断が加速し、アメリカのソフトパワーが急速に低下している。新型コロナウイルスへの対処に関して、権威主義が民主主義よりも効率的な制度であるとの認識が一部でますます広がる中、アメリカ国内で民主制度が揺らぐことは、日本をはじめとする民主国家にとっても看過できない問題である。トランプの今後の動きを注視する必要がある。

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プロフィール

小谷哲男

明海大学外国語学部教授、日本国際問題研究所主任研究員を兼任。専門は日本の外交・安全保障政策、日米同盟、インド太平洋地域の国際関係と海洋安全保障。1973年生まれ。2008年、同志社大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。米ヴァンダービルト大学日米センター研究員、岡崎研究所研究員、日本国際問題研究所研究員等を経て2018年4月より現職。主な共著として、『アジアの安全保障(2017-2018)(朝雲新聞社、2017年)、『現代日本の地政学』(中公新書、2017年)、『国際関係・安全保障用語辞典第2版』(ミネルヴァ書房、2017年)。平成15年度防衛庁長官賞受賞。

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