コラム

北方領土のロシア軍近代化 公開資料で実像に迫る

2017年03月31日(金)19時00分

・操縦訓練装置
-MT-LB兵員輸送車用シミュレーター:2基
・操縦・射撃訓練装置
-TEK-184-PRD(T-72B戦車用)
-TTV-184(不明)
-TR-184(不明)
-SAZ-184(車載機関銃用)
・射撃訓練装置
-9F700-1(RPG-7V対戦車ロケット用)
-9F635M(イグラ歩兵携行対空ミサイル用)
-1U40(AK-74自動小銃用)

以上のうち、注目されるのは184の数字がつく一連のシミュレーターである。184はT-72B戦車の開発時に与えられていたコードネームであり、したがってこれらは両島にT-72Bを配備する準備と考えられよう。

ただし、これまで両島に配備されていた戦車はT-80BVであったので、おそらくはこれらの代替としてT-72B(おそらくは現在、ロシア軍への配備が進むT-72B3)を配備する計画なのだろう。

国後島に配備された新型ミサイル

koizumi20170331161901.jpg
国後島に配備されたのと同じバール地対艦ミサイル(ロシア国防省)

3月30日、「産経新聞」は、国後島に配備されたバール地対艦ミサイルの鮮明な写真(消息筋から入手したとしている)を公表した(「国後島で進む露「要塞化」 兵舎、インフラ...駐屯地拡充 武器格納庫に地対艦ミサイル「バル」」)。

同ミサイルは昨年11月に配備されたことが明らかになったものだが、写真が公表されるのはこれが初めてである。

この写真から読み取れることもまた実に多い。

まず、周辺の景色から判断すると、バール部隊が配備されたのは国後島に駐留する陸軍のラグーンノエ駐屯地内と見られ、海軍として新たに基地を建設したわけではないようだ。

格納庫は空気で膨らませるインフレータブル式で、これは近年のロシア軍が装備品の保管状態を改善するために配備を進めているものである。

格納庫内にはバール・システムを構成する車両が2列に並んで収められており、向かって右側の列にはKh-35ウラン対艦ミサイル(射程130km)のランチャーを8本搭載した自走式発射機、その後方には移動式指揮車の姿が見える。左側の列に並んでいるのは弾薬補給車で、やはりKh-35のランチャーが8本搭載されている。

さらに後方に並んでいる車両については判然としないが、おそらく同じような移動式発射機や弾薬補給車と見られ、おそらく1個中隊分(指揮車1、発射機2、補給車2)程度がこの格納庫に収められているのではないか。

また、衛星画像でラグーンノエ駐屯地周辺を確認してみると、駐屯地の南側にも同じような格納庫を建設できそうなコンクリートのたたきが作られており、もう1個中隊分のバール・システムが配備される(あるいはすでに配備されている)可能性もある。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。


プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story