コラム

英総選挙、どっちつかずより「とっとと離脱」を選んだイギリスは大丈夫か

2019年12月14日(土)10時58分

「ブレグジットをやっちまえ(Get Brexit Done)」というジョンソンの訴えがイギリス人に響いた(12月11日) Hannah McKay−REUTERS

<イギリス人は3年前の国民投票でEU離脱を選択してしまったことを後悔していると思ったが、フタを開ければ、強硬離脱派のジョンソンが歴史的大勝を収め、再度の国民投票を提示した労働党は大敗した。一体何が起こったのか>

イギリスで12日、下院(定数650)総選挙が行われ、ボリス・ジョンソン氏が率いる保守党が単独過半数を超える365議席を獲得して、圧勝した。ここまでの議席数は、1987年のマーガレット・サッチャー首相以来。今年7月末の首相就任時には「イギリスを壊す男」とも言われたジョンソン氏はなぜ勝てたのか。

一方、社会主義的政策で若者層を中心に人気を得ていた労働党のジェレミー・コービン党首。世論調査では保守党との差を当初の20ポイントから10ポイントにまで縮め、追い上げていたものの、59議席を失うという驚きの結果になった。

保守党と労働党、こうも大きく明暗を分けたのはなぜだろう。

「ブレグジットを片付けてしまおう」

単独過半数が確定した後、ジョンソン首相は保守党員の前に立ち、演説を始めた。「初めて保守党に投票した方は、今回、私たちに票を貸してくれただけかもしれません」

「これは自分がロンドン市長に選ばれた時も、こう言ったのですが」と前置きをして、右腕をブルブルと振るわせた。「投票用紙の保守党の欄にチェックを入れた時、手が震えたかもしれません」。少し笑いが起きる。しかし、雰囲気はあくまでも真面目だ。「あなたは次回、労働党に投票するのかもしれません。でも、あなたが私たちを信頼してくれたことに感謝します。私は、私たち保守党はあなたの信頼を決して無駄にしません」。拍手が沸いた。

伝統的に労働党に投票する多くの有権者が今回保守党に投票したこと。これこそ、ジョンソン氏率いる保守党の成功の印だった。

選挙期間中は、「コービン政権を成立させてはならない」と何度も繰り返してきた。実際に、コービン排除に成功したのである。

「さあ、これからブレグジットを片付けてしまいましょう」。「ブレグジットを実行する(Let's get Brexit done)」というフレーズは、選挙運動中に何度も繰り返してきた。

しかし、ここで終わってしまっては、保守党最大のジョーク男と言われるジョンソン氏らしくない。そこで、「その前に......朝食を片付けてしまいましょう!」。聴衆がどっと沸いた。

名門イートン校からオックスフォード大学に進み、ジャーナリストから下院議員、ロンドン市長、そしてまた下院議員、さらに外相にまでなったジョンソン氏をイギリスでは「ボリス」以外で呼ぶ人はほとんどいない(今は「首相」という呼び方が多いかもしれないが)。

テレビのクイズ番組内でのユーモアあふれる応答によって国民的人気者になり、「いつも笑わせてくれる政治家」として知られるようになったが、政治信条は風見鶏的で、離脱を推進する政治家となったのも、その方が首相になれる確率が高かったからに過ぎない。事実の誇張や女性蔑視、人種差別的とも捉えうる危ない表現がひょこっと顔を出す人物である。

<参考記事>次期英首相最有力、ボリス・ジョンソンは国をぶっ壊しかねない問題児
<参考記事>離脱強硬派ジョンソン勝利でイギリス「連合王国」解体か

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story