コラム

自分で思うほど「偉大な国」でなくなった英国...スターマー新首相が見習うべき古豪サッカークラブの教訓

2024年07月13日(土)15時20分

1864年に創設され、世界で3番目に古い伝統を持つレクサムA.F.C.は炭鉱の閉鎖とともに苦境に立たされ、イングランドの5部リーグを低迷していた。TVシリーズはクラブの苦闘と快進撃、選手とクラブ、コミュニティーを温かいタッチで描き出し、サポーターを世界中に広げていく。

産業革命で栄華を極めた後、衰退し続ける英国にはレクサムのように落ちぶれた街とちっぽけなサッカークラブがたくさんある。スターマー氏に課せられた仕事はクラブの復活を通じてレクサムというコミュニティーに活気を取り戻した2人のハリウッドスターと同じなのだ。

英国は自分で思っているほど偉大ではなくなった

まず資本、マネジメント力、タレントが必要だ。その3つが核となってコミュニティーも次第に元気を取り戻していく。スターマー政権には統計だけでなく、現実生活の中で人々に貢献する方法を見つける必要があるとボールドウィン氏は指摘する。

「スターマー政権には経済成長を非常に早く達成しなければならないという緊張感がある。しかしそれは長期的な目標や技能、インフラ、産業計画に関わっている。ジョー・バイデン米大統領、オラフ・ショルツ独首相は素晴らしい政策を実施しているが、人々はそれを感じていない」

旧敵・保守党と地域政党・スコットランド民族党(SNP)を打ち破ったスターマー氏にはポピュリストの極右政党「リフォームUK」(改革英国)との新たな戦いが待ち受ける。そしてガザでの戦争、中国の台頭、気候変動、トランプ2.0の可能性、ウクライナ戦争という外患もある。

「英国は自分で思っているほど偉大ではなくなった」ことを自覚することから始めるべきだと筆者は考える。しかし欧州連合(EU)との間でヒト・モノ・カネ・サービスが停滞したままでは瀕死の英国経済を立て直すのは至難の業だろう。

2024091724issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年9月17日/24日号(9月10日発売)は「ニュースが分かる ユダヤ超入門」特集。ユダヤ人とは何なのか/なぜ世界に離散したのか/優秀な人材を輩出してきたのはなぜか…ユダヤを知れば世界が分かる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏暗殺未遂の容疑者を訴追、銃不法所持で 現

ビジネス

米国の物価情勢「重要な転換点」、雇用に重点を=NE

ワールド

ドイツ、不法移民抑制へ国境管理強化 専門家は効果疑

ビジネス

ボーイング、雇用凍結・一時解雇を検討 スト4日目に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優雅でドラマチックな瞬間に注目
  • 2
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰だこれは」「撤去しろ」と批判殺到してしまう
  • 3
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将来の「和解は考えられない」と伝記作家が断言
  • 4
    地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない…
  • 5
    バルト三国で、急速に強まるロシアの「侵攻」への警…
  • 6
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 7
    広報戦略ミス?...霞んでしまったメーガン妃とヘンリ…
  • 8
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 9
    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…
  • 10
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 4
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 5
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 6
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 7
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 8
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 9
    33店舗が閉店、100店舗を割るヨーカドーの真相...い…
  • 10
    世界に離散、大富豪も多い...「ユダヤ」とは一体何な…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 4
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 5
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 6
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 7
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 8
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 9
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 10
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story