コラム

キャサリン皇太子妃に「がん告白」を迫った陰謀論の高まり...背景にあったロシア偽情報トロール部隊の存在

2024年03月30日(土)12時04分

ハイジャックと呼ばれる手口

オリジナル投稿ではなく、コメントや返信をするハイジャックと呼ばれる手口を使う理由はX(旧ツイッター)やフェイスブックなどのソーシャルメディアプラットフォームが偽情報のメッセージングに気づいて阻止するのが非常に難しくなるからだとイネス所長は種明かしをする。

「興味深いのは、彼らはクレムリンと契約してソーシャルメディアにメッセージを配信する営利団体で、闇のPR会社のようなものだということだ。彼らはある種の意図を持ってメッセージを発信しているだけでなく、商業的な意図も持っている。彼らの目的は報酬なのだ」

一般の商業契約と同じようにノルマとして一定期間に発信しなければならないメッセージの数、閲覧数、注目される量が課せられている可能性が高い。「今回のような注目度の高いストーリーに飛びつくことで自分たちの望むシナリオを拡散し、営業目標の達成を容易にできる」という。

王族の健康状態に関する記事の注目度は非常に高い。継続的にメッセージを挿入したり、特定のハッシュタグに飛びついたりするだけでも伝えたいメッセージに多くの注目を集められる。投稿したうち、わずかな反応を得ることができるだけでも大成功なのだ。

中国が世界的サイバー攻撃

クレムリンは恒常的に複数の偽情報グループを雇って、自分たちにとって都合の良いデマやプロパガンダをまき散らしている。パキスタンやインドネシアなど、さまざまな国で活動する商業的なインフルエンサー、闇のPR会社も活動していた。

「フォロワーの数を増やし、伝えたいメッセージに注目を集めたい人にとり皇太子妃のような注目度の高い人物は磁石のような役割を果たす」とイネス所長は語る。皇太子妃の好感度は王族の中でナンバー1。世界中が注目する米大統領選も迫り、トロール部隊にとっては稼ぎ時だ。

英米両政府は3月25日、中国が政治家、ジャーナリスト、学者、何百万人もの有権者の個人情報を標的に大規模な世界的サイバー攻撃を仕掛けているとして制裁を発動した。今年、世界人口の半分以上、40億人超の76カ国で選挙が行われるだけに偽情報には注意が必要だ。

皇太子妃の健康状態を巡る陰謀論を増幅させたのはマスコミを嫌うウィリアム皇太子の秘密主義だ。陰謀論が最も嫌うのは透明性だ。皇太子妃には本当に気の毒だが、プライバシーを優先するあまり、情報の「空白」を作り「加工」までしたのは大失敗と言わざるを得ないだろう。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story