コラム

極端で不正確だが、米国の一面を「確かに表す」トランプの言葉...その人気が示す超大国の「暗い現実」

2024年03月09日(土)18時44分

ガザ人道支援の「優先」を強調したバイデン

米国勢調査局によると、貧困率は2021年の7.8%から22年に12.4%に急上昇した。10年以来、貧困率が上昇するのは初めて。子どもの貧困率も5.2%から12.4%に倍増した。インフレはバイデン氏が大盤振る舞いしたコロナ緊急対策の成果を帳消しにした。ここがトランプ氏の付け目だ。

バイデン氏の最優先事項は左派をまとめ切れず、トランプ氏に敗れた16年のヒラリー・クリントン氏の轍を踏まないこと。パレスチナ自治区ガザへの人道支援の「優先」を強調したのも自身の親イスラエル色を薄め、左派の分裂を防ぐ狙いがある。

バイデン氏は「イスラエルの指導者に告ぐ。 人道支援を二の次にしたり、駆け引きの材料にしたりしてはならない。罪のない人々の命を守り、救うことを優先しなければならない。将来を見据えた時、この状況に対する唯一、真の解決策は時間をかけた2国家解決だ」と演説した。

トランプ氏はウラジーミル・プーチン露大統領寄りの姿勢を隠そうともせず、自分が大統領に返り咲けば「24時間以内にウクライナ戦争を片付ける」と豪語する。戦争のエスカレーションとウクライナ敗北の悪夢は絶対に避けたいバイデン氏は一般教書演説で2人の違いを強調した。

「米国の歴史において前例のない瞬間に直面」

バイデン氏は1941年のフランクリン・ルーズベルト大統領の演説を引き「私たちは米国の歴史において前例のない瞬間に直面している。この瞬間が稀有なのは自由と民主主義が国内外で同時に攻撃を受けていることだ。米国が手を引けばウクライナや欧州を危険にさらす」と力説した。

20年大統領選の結果を受け入れようとせず、米議会襲撃を扇動したトランプ氏のディストピア論に対し、バイデン氏は「未来」という言葉を23回も使い「民主主義への脅威は打ち破られなければならない。米国のカムバックとは米国の可能性の未来を築くことだ」と宣戦布告した。

「米国を過去に引き戻そうとする者と米国を未来に進ませようとする者。私の生涯は自由と民主主義を受け入れ、米国を定義してきた核となる価値観、誠実さ、良識、品位、平等に基づいた未来を築くこと、すべての人を尊重することを教えてくれた」

トランプ氏が描く米国像について「今、私と同世代の人は違う見方をしている。恨み、復讐、報復という米国の物語だ」と指摘した。

「皆さん、私は危機に瀕した経済を引き継いだ。今、わが国の経済は文字通り世界の羨望の的となった。わずか3年間で1500万人の新規雇用を創出した。記録的だ」とバイデン氏は胸を張った。しかしトランプ氏の底堅い人気は米国の暗部〈ディストピア〉を如実に物語っている。

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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