コラム

英国民はなぜ「英国のオバマ」スナク新首相が嫌い? 党と経済の立て直しには最適だが

2022年10月25日(火)11時18分

保守党がここまで瀬戸際に追い込まれていなかったら、1960年代に英国に移住したインド系アフリカ移民の両親を持つスナク氏が旧宗主国の首相になることはなかっただろう。父は医師、母は薬剤師。本人は名門全寮制校ウィンチェスター・カレッジ、英オックスフォード大学、米スタンフォード大学で学んだ英才。卒業後は米投資銀行やヘッジファンドで働いた。

インドのIT企業インフォシス創業者のご令嬢アクシャータ・ムルティさんと結婚。「ディズニーランドの王子様」そのもののサクセスストーリーを歩んできた。議会では聖書の代わりにヒンズー教の聖典を掲げ、英君主に忠誠を誓った。コロナ危機の緊急経済対策や脱炭素経済政策で手腕を発揮し、下院議員歴わずか7年で次期首相レースの最有力候補に躍り出た。

「妻は英国で税金を払ってないのに私たちには増税か」

しかし富裕な妻が税金を英国ではなく国外で納めてきたことが発覚してからケチがついた。スナク氏の法人税率や国民保険料の引き上げ政策は重税を嫌う保守党支持層に「自分の妻は英国で税金を払っていないのに、私たちには増税か」とソッポを向かれた。英紙タイムズの2022年版長者番付によると、スナク夫妻の純資産は7億3000万ポンド(約1226億円)だ。

今年4月、ムルティさんが英国国外に永住地を持つ人が年3万ポンド(約504万円)を支払えば英国での収入についてのみ税金を納めれば済む「ノンドム」であることが明るみに出た。ムルティさんはインフォシス株の0.93%(約1160億円相当)を所有しており、過去7年半で約5400万ポンド(約90億7700万円)の配当があったとみられている。

「ノンドム」ステイタスがなければこれらの配当に対して約2060万ポンド(約34億6400万円)の税金を英国で納める必要があった。ムルティさんは昨年の配当約1100万ポンド(約18億5000万円)に対して約433万ポンド(約7億2800万円)の税金を納めることで同意している。しかし「ノンドム」に対する怨嗟の声は英国の草の根に渦巻いている。

それこそ貧富の格差の象徴だからだ。22年版長者番付によると、上位250人の資産のうち英国生まれの長者の資産はわずか38%。10年前の45%から減少していた。長者上位10人のうち英国生まれは掃除機やドライヤーで世界的ヒットを飛ばしたダイソン社創業者ジェームズ・ダイソン氏(2位)ただ1人。これに対してインド生まれは1位、3位、6位を占める。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 買春疑惑で

ワールド

ウクライナ戦争「世界的な紛争」に、ロシア反撃の用意

ワールド

トランプ氏メディア企業、暗号資産決済サービス開発を

ワールド

レバノン東部で47人死亡、停戦交渉中もイスラエル軍
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story