コラム

日本の防衛費「GDP1%枠」は聖域か、それとも単なる数字合わせ? 世界平均は2.2%

2018年05月02日(水)21時40分

一方、クリミア併合、旧ソ連時代を通じて中東での初の軍事行動となったシリア介入を強行したロシアは同時期、国防支出を20%も減らしている。ウラジーミル・プーチン露大統領は核・ミサイルや軍の近代化を急ピッチで進めているものの、西側の経済制裁はボディーブローのように効いているようだ。

地域別で見ると、アジア・オセアニア地域は対前年比3.6%増の4770億ドル。世界に占める割合は27%(08年は17%)。08年に比べると国防支出の総額は59%も拡大している。

08年からの10年間では(1)カンボジア332%増(2)バングラデシュ123%増(3)インドネシア122%増(4)中国110%増のほか、40%以上国防支出を増やした国の中にはベトナム、フィリピン、キルギスタン、ミャンマー、ネパール、インドが顔をそろえる。

kimurachart180502-3.jpg

米中の国防支出ではまだまだアメリカが圧倒的な優位を保っているが、ロンドンにある有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)は13年当時、早ければ中国の国防支出は2045年ごろにはアメリカと肩を並べると予測している。

中華人民共和国建国100周年(2049年)に中国は軍事力でアメリカと肩を並べるのが習近平国家主席の掲げる「中国の夢」の一つだ。

不明瞭な日本の防衛費

習氏は昨年10月の第19回党大会で「新しい時代に強い軍隊を構築する。中国共産党の目標は中国人民解放軍を共産党の命令に従う世界一流の軍隊にすることだ。戦って勝つ。そして品位を保てる軍隊だ」と演説した。

中国の太平洋進出の防波堤となる日本は日米同盟を基軸にオーストラリアやインドともスクラムを組む必要がある。そのために必要な軍備増強は避けては通れない。

対国内総生産(GDP)比で見た世界の国防支出は1992年の3.3%から2014年には2.1%まで減少したものの、昨年は再び2.2%まで上昇した。

日本は0.9%だが、この数字からは退官した元自衛官の年金が抜かれている。年金を加えると「防衛費1%枠」を超えるのは間違いない。平和憲法の名の下、防衛費1%枠の「聖域」を守るためだけの数字合わせはもう止めて、そろそろ軍人年金を含めたNATO標準に合わせた数字を公表すべき時ではなかろうか。

そうでないと日本の防衛費が世界的に見て、どの辺りに位置するのか正確に把握するのが難しいし、アメリカの世論に対して日本の軍事的な貢献度を伝えられなくなる。

「1%」という数字合わせではなく、生の数字を出した上でNATO目標の国防支出GDP比2%に足並みをそろえる必要がある。


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story