コラム

文大統領の「3.1演説」の注目点と日韓関係における東京オリンピックの重要性

2021年03月04日(木)13時41分
文在寅,3.1独立運動記念日,韓国

3.1独立運動記念式典で韓国の文在寅大統領は日本に協力を呼びかけた(3月1日、ソウル) REUTERS

<文大統領の演説は、北朝鮮との対話には日米の協力が不可欠であること、そのために東京五輪の場を活用したいと願っていることを表している>

*このコラムの内容は筆者個人の見解で、所属する組織とは関係ありません。

3月1日、ソウルの「タプコル公園」では、1919年3月1日に日本による植民地支配に反対して朝鮮半島の民衆が立ち上がった「3.1独立運動」の102回目の記念式が行われた。今回の記念式や文在寅大統領の演説の中から注目する点は何だろうか。筆者が注目した点をいくつか紹介したい。

まず、記念式が行われた場所だ。文大統領は「3.1独立運動」の歴史的意味を強調するために、毎年「3.1独立運動」と関係がある場所を選定して記念式を行っている。例えば、2018年には独立運動家が多く収監されていた西大門刑務所の跡地に建てられた歴史館の前で、2020年には多くの学生が「3.1独立運動」に参加し、2018年に6人が独立有功者*として認定されたソウルの培花女子高の前で記念式を行った(2020年の記念式は「3.1独立運動」から100年目を迎える意味ある年であったので光化門の前で開かれた)。そして、今年は「3.1独立運動」の起点となり、独立宣言書が朗読されたソウルのタプコル公園で記念式が行われた。

3.1運動の歴史的意義を強調しつつも

文大統領以前は「3.1独立運動」の記念式はソウルの世宗文化会館で行われるのが一般的だった。朴槿恵前大統領の場合、2014年から2017年までの「3.1独立運動」の記念式をすべて世宗文化会館で行った。文在寅政府が記念式の場所を毎年変更している理由は、現政府が前政府とは異なり、「3.1独立運動」の歴史的意義をよく理解しており、過去を忘れず新しい未来を創るために常に努力している点を国民にアピールするためではないかと考えられる。

*独立有功者:1910年の韓国併合前後から1945年8月14日までに、併合に反対もしくは独立運動のために抵抗し、建国勲章・建国褒章または、大統領表彰を受けた者である。「独立有功者」に認定されると、「独立有功者礼遇に関する法律」に基づき、本人及びその家族や遺族は報償金や年金、住宅の優先分譲などの国からの支援を受け続けることができる。

2番目に注目したい点は東京オリンピックをきっかけに日本との関係を改善したいという韓国政府のメッセージが文大統領の演説や記念式の様々な場面に含まれていたことである。文大統領は演説で「日韓両国は過去と未来を同時に見つめながら、一緒に歩いています。今年開かれる東京オリンピックは 日韓間、南北間、日朝間そして米朝間の対話の機会にもなり得ます。韓国は東京オリンピックの成功的な開催のために協力するつもりです。」と、韓国が東京オリンピックに協力したいという意思を伝えた。韓国政府はオリンピックの開催により需要が増加すると予想される注射器(新型コロナウイルスワクチンを1瓶当たり6回接種できる注射器)や防疫関連製品の提供、医療従事者の派遣などで日本に協力することができるだろう。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story