コラム

ロシアは日本にとっても危険な国なのか? 「極東ロシア」の正しい恐れ方

2022年04月27日(水)10時57分

中ロ間で起き得る「領土問題」

それでも、台湾有事などで中国の艦隊と連携行動を取られると、ロシア海軍も日米にとって煩わしい存在になるのだが、それも大したものにはならないだろう。

2014年のクリミア「併合」をまだ認めてもおらず、今回のウクライナ戦争でも様子見に徹している中国が台湾を併合すると言っても、ロシアはおいそれとは助けないだろう。たとえロシア海軍が台湾周辺まで繰り出しても、格好の標的になるだけだ。

ウクライナ戦争で、ロシアは西側諸国との関係を大きく悪化させている。孤立したロシアは、中国にとってはアメリカに対抗するための同盟相手というよりも、アメリカとの不要な対立に中国を引き込みかねないお荷物的な存在になる。

習近平(シー・チンピン)国家主席はロシアを共産主義の先輩として尊敬の念を持って接している。しかし彼が去るときやロシアに愛想をつかすときロシアが清朝から奪った沿海地方を含む日本の4倍の面積を持つ領土を突然返せと言い出さないとも限らない。このとき、日本はどう動く?

ロシアのウクライナ侵攻は、戦後の国連体制をぶち壊すものだ。その落とし前はロシアにつけさせなければならない。他方、極東でのロシアは日本にとって、敵一辺倒な存在でもない。ロシアは「正しく恐れる」ことが必要なのだ。

日本がウクライナになる日
 河東哲夫 著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


【緊急出版】ロシアを見てきた外交官が、ウクライナ戦争と日本の今後を徹底解説。「ニューズウィーク日本版」編集長・長岡義博推薦

私たちの自由と民主主義を守るために、知るべきこと。そして、考えるべきこと。

地政学、歴史、経済といった多角的視点から「複雑なロシアの事情」を明快に伝える。そのうえで、国際社会との関係を再考し、今後、日本の私たちはどこに焦点を当てながら、ニュースを見、政治を考えていけばよいのかがわかる。

平和ボケか、大げさな超国家主義しかない、戦後の日本を脱却するには。

【目次】
第一章 戦争で見えたこと ――プーチン独裁が引き起こす誤算
第二章 どうしてこんな戦争に? ――ウクライナとは、何があったのか
第三章 プーチンの決断 ――なぜウクライナを襲ったのか
第四章 ロシアは頭じゃわからない ――改革不能の経済と社会
第五章 戦争で世界はどうなる? ――国際関係のバランスが変わる時
第六章 日本をウクライナにしないために ――これからの日本の安全保障体制
あとがき ――学び、考え、自分たちで世界をつくる

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story