コラム

米軍撤退のアフガニスタンで次に起きること

2021年08月04日(水)12時00分

ユーラシアを中ロが牛耳る──。それでいいではないか。そのうち両国は、角を突き合わせてけんかを始めるだろう。タジキスタンがタリバンを恐れ、自国に常駐するロシア軍1個師団だけでは心もとないと思えば中国軍を呼び込むかもしれない。そのとき、ロシアは黙っているまい。

アメリカは、オバマ政権以降は国外への軍事介入は避けたが、途上国での民主化を支援する動きは続けた。しかしバイデンはアフガニスタン、イラクからの撤退だけでなく、世界での過分の関与も清算する構えでいる。これまでアメリカが関与しても民主化は進まず、支援する現地政府は腐敗と内紛の限りを尽くし、反政府勢力は反米を旗印に諸方から資金を引き出す。中国とロシアはアメリカを批判するだけで労せずしてポイントを稼げる。要するに、誰もがアメリカを利用してきたのだ。

バイデンは、この愚かな構図から足を洗おうとしている。7月11日の総選挙で親EU勢力が大勝した旧ソ連のモルドバでは、アメリカ大使が「ロシアとの関係も正常に維持するよう」政権に釘を刺した。ウクライナではバイデンにすり寄るゼレンスキー大統領を押しとどめて、まず同国の腐敗一掃と改革を進めさせ、その上でクリミアと東ウクライナの問題を、現状凍結の方向でロシアと決着をはかる構えだ。

ではバイデンのアメリカは、ヨーロッパと日本からも「足を洗う」のか? そうはなるまい。欧州・日本・大洋州諸国はアメリカの負担になるどころか、世界におけるアメリカの力を補強してくれる存在だからだ。

そして、戦闘部隊撤退でアメリカがアフガニスタンから完全に消えるわけでもあるまい。現地軍の訓練要員、それに諜報要員は残る。仮にタリバンがカブールを制圧しても、米軍人、大使館、そしてアメリカとの外交関係は残るかもしれない。もともとアメリカとタリバンは、ドーハなどで話し合いを重ねているのだから。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story