コラム

韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの矜持だった

2024年12月10日(火)14時13分

15万人の前で、大統領の弾劾を否定した国会

そしてこの様な韓国の状況は、われわれが頼みとする民主主義という制度がいかに脆弱な基盤の上に成立しているかを示している。国家は強大な物理的強制力を持っており、それがいったん牙をむけば、われわれはこれに対処する手段を有していない。事態を実際に動かしたのは、市民によるデモではなく、深夜に危険を冒して国会議事堂に駆け付けた国会議員と、更には軍法会議にかけられる危険をも冒して、国軍司令官である大統領に「抗命」した軍人たちだった。つまり、今回の韓国の危機を救ったのは、これらの国家機関を構成する人々、さらには戒厳令布告にもかかわらず報道を続けたメディアを構成する「エリート」たちの矜持だったことになる。

そしてそれからわずか4日後、韓国の国会は議事堂前に詰めかけた15万人の人々の前で、自ら大統領の弾劾を否定して見せた。韓国という国家はどこに行こうとしているのか、そして市民はこれを押しとどめる術を有しているのか。民主主義そのものが問われている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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