コラム

土地持ち農家は高額な相続税を払え...英労働党の新方針が農村部で大不評

2024年12月27日(金)17時36分
イギリスのロンドンで英労働党政権の農家の相続税の方針に抗議する農業従事者のデモ

英労働党政権の打ち出した農家の相続税方針にトラクターの車列で抗議する農業従事者らのデモ(12月、ロンドン) REUTERS-LAB KY MO/ SOPA IMAGES

<既に失速気味のイギリス労働党政権が、農家の事業継承に致命的な法改正を発表。農場を継ぐためには高額納税か土地売却を迫られる>

イギリスのキア・スターマー首相は既に国中至る所でかなり不人気だが、地方では特に厄介なことになっている。労働党は農村部の有権者の悩みを「理解」してこなかった前歴があり、スターマーもそれを踏襲しているようだ。

労働党運動全体はもともと、組織化された産業労働者階級から生まれた (だからこそ労働党という名前が付いた)が、奇妙なことに、その支持基盤をより拡大するにあたっては、懸命に働く農家よりも都市に住む中流階級を取り込むほうが得意なようだ。選挙ではライバルの保守党が勝ちやすい理由の1つも、ここにある。

労働党のブレア政権はかつて、キツネ狩りを禁止してイングランド地方部を困惑させた。キツネはまだ殺しても問題がない(実際には個体数をある程度に抑えて管理する必要があるほどだ)が、ブレアの労働党は田舎の人々に対し、組織的なキツネ狩りを禁止した。

都会の人から見れば、キツネ狩りは残酷。田舎の人から見れば、それは長年の伝統であり、農村のことを何も知らない町の人々が干渉すべきではなかったのだ。

家業を継ぐために大金を工面

そしてここにきて、スターマー政権が打ち出した相続税の新政策は、スターマーが農業の仕組みをただもう理解していないことを物語っていると思われているため、農家の人々を怒らせている。労働党政権は、相続税なしに農場を相続できるこれまでの法の抜け穴を改正。家業の農業を継ごうと思ったら、土地に見合うだけのカネを工面して納税しなければいけなくなった。

農家はたくさんの土地を持っていて、そうした土地の価格は、特にイングランド南東部ではここ数十年で非常に高騰している。とはいえ、だからといって農業での利益が急増したわけではない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EU、Temu・SHEINに販売責任 安価で危険な

ビジネス

独プラント・設備受注、昨年8%減 2年連続のマイナ

ビジネス

日産、ホンダとの統合協議を白紙に 取締役会が方針確

ワールド

中国外務省、EUに協力呼びかけ 「世界的な課題」巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 2
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 5
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 6
    中国AI企業ディープシーク、米オープンAIのデータ『…
  • 7
    脳のパフォーマンスが「最高状態」になる室温とは?…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 10
    DeepSeekが「本当に大事件」である3つの理由...中国…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 9
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 10
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story