コラム

アメリカの「国境調整税」導入見送りから日本が学ぶこと

2017年08月04日(金)17時00分

実は消費税制度の大きな問題として、一度導入されると、上記のような特定税制撤廃の他にも、通常の税率よりも低く設定することで対象業界が有利となる軽減税率を要求するなど陳情合戦に陥ることが、既に40年以上前のニクソン政権下での税制改革の際に取り沙汰されていました。だから企業はけしからんといった稚拙で短絡的な企業バッシングをここでするつもりは全くありません。

企業は営利目的で活動している以上、税制であれ他の規制であれ、少しでも優位にとの食指が伸びるのは当然です。だからこそ税制などの制度設計をする場合には公平で自由な競争を阻害しないことが非常に重要で、行政側はそこに留意すべしというのが米国のスタンスでもあります。今回もそうですが、先進各国が全て消費税・付加価値税を採用してもなお、連邦国家として米国だけは頑として導入に踏み切らなかった理由の1つはそこにあります。

【参考記事】大胆不敵なトランプ税制改革案、成否を分ける6つのファクター

増税による国内需要の減退、国内市場・消費者への破滅的な影響があると実体経済への悪影響に深い理解を示し、公正な競争の観点から各社・ディーラーが米国での消費税導入反対の強烈なロビー活動に尽力されたのであれば、特定税制撤廃や軽減税率などの対症療法ではなく、日本の消費税についても同じように、消費税制度そのものへ根本的な問題提起をしていただけないだろうかと切に願うわけです。

そして、世界最大の債務国(世界最大の債権国は日本)である米国ではありますが、この度、共和党にBATを諦めさせ、国内経済と税の公平性の観点からトランプ政権が下した今回の判断について、消費税増税ありきで拳を振り上げている日本の政治家の方にも是非、これを機にいったんニュートラルな立場に立ち返って、米国内で取り沙汰された論点などを参考にお考えをいただきたいと思う次第です。

トランプ政権下でのBATあるいは消費税・付加価値税導入はこれで見送りが決定的となりましたが、トランプ政権としてはBATや消費税・付加価値税とはまた別の独自の国境税案を持っています。それをいよいよ持ち出すのか、腰砕けとなるのか。引き続きフォローしたいと思います。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story