コラム

マイナンバー騒動に秘められた消費税増税の「落とし所」

2015年09月16日(水)18時45分

 そうしたことを踏まえてでしょうか、この財務省案が提出されたそばから与党内からも反対の声が上がったのは周知の通りです。唐突な発表に、日々の切実な問題として一般国民は還付の上限が年間4000円に限られるという点にまずは反発しましたし、現場の店舗目線で考えれば還付のための専用端末の設置などシステム導入だけで大変な負担です。導入できない小売店を避け大型量販店へと集中が進めば、大企業やシステム会社にとってはよろしくても、日本の企業数からすれば実に99.7%、日本の雇用の7割を支えるとされる中小零細企業にとっては大変な痛手となり、内需が一層疲弊するのは目に見えています。

 総スカンを食らうのが最初から目に見えているような、誰が見ても「お粗末」な還付案を国民の心理誘導に長けている当局がなぜわざわざ持ち出してきたのか――「松竹梅」理論で考えれば答えは明快でしょう。今回の還付案が「梅」なら、それ以前の軽減税率が「竹」。消費税10%増税だけで軽減税率も還付もなしとする「松」が徴税する側からすれば理想と映るやもしれません。が、いくらなんでもそこまで期待は出来ぬ、というところで落としどころを探っているのが現状。基本的に「竹」でも「梅」でもお店にとっては構わないように、「竹」案、「梅」案どっちに転んでも当局にとっては痛くも痒くもないわけです。そして、同じ負担軽減策であるにもかかわらず、新聞報道ではなぜ軽減税率には賛成で還付案には反対の声が盛んに取り沙汰されるのか、言わずもがなかと思います。
 
 マイナンバーが記載されたカードを紛失すれば重大な個人情報の流出につながるため、買い物のたびに持ち歩く不安を抱く国民に対して「カードを持ち歩かなければ減税なし」と蔵相が発言し、これまた物議を醸しだすことに。その主張、あるいは言葉のチョイスに全面的に賛成というわけにはいきませんが、非難が集中した「(軽減税率の導入は)面倒くさい」との発言だけを取り上げると、税の簡素化の原則に従えば、実は真っ当な指摘とも言えるのです。

 一連のコメントについて蔵相らしい発想との声も聞かれましたが、政治家としては何も反感を買うようなことを敢えてこのタイミングで仰る必要はないはず。ただし、10%増税に向けてのことの推移から察するに、そして蔵相ご自身にそうした意図があるやなしやは一般人のワタクシが知る由など全くありませんが、ただでさえ反発の声の強い「梅」案について、国民感情を逆なでして反感を一層増長できるという意味では功を奏した形とになります。そこで満を持して「従来の軽減税率制度も並行して議論を」との「竹」案が再浮上して来るのですから、「竹」の魅力が増すという点では思惑通りということになります。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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