コラム

ノーベル賞受賞者が言ったから、イベルメクチンを「盲信」していいのか?

2022年06月14日(火)18時00分

「権威」の言うことが常に正しいとは限らない

もう1つ、本書で気になるのは編集の在り方だ。大村氏を前面に押し出すのは良かったのだろうか。ノーベル賞は確かに権威であり、受賞者の発言は重く受け止められる。普通の科学者やジャーナリストの発言とは社会的な影響力が違うのも事実だ。政府とも、医学界の主流とも異なる見解を述べる姿勢を痛快に思う人もいるだろう。なんといっても、本書は全国学校図書館協議会選定図書だ。しかし、権威が「こう言っているから」といっても、それが正しいとは限らない。

イベルメクチンは救世主候補だったことはあっても、救世主になり得る可能性は後退している。現状を覆す論文が発表されるのなら、早く読みたいと心から思うのだが。

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プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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