コラム

サッカー日本代表の森保監督に刺さる8年前の「ブーメラン」

2022年01月18日(火)18時15分

HISAKO KAWASAKIーNEWSWEEK JAPAN

<ついにワールドカップイヤーを迎え、1月27日にアジア最終予選の中国戦が迫るサッカー日本代表。序盤の絶体絶命の状況こそ何とか脱したが、その後も苦戦が続く森保ジャパンの低迷の理由が、8年前の森保監督の自著に書かれていた>

今回のダメ本

ishido-web-02220118.jpgプロサッカー監督の仕事 非カリスマ型マネジメントの極意
森保一[著]
カンゼン
(2014年12月22日)

最初に断っておくと、私はサッカーを専門とするライターではない。しかし、観戦することはずっと好きで、新聞記者時代には現在U-20日本代表を率いる影山雅永監督時代のファジアーノ岡山を担当していた。1人のフットボールファンとして、国内外のサッカーを観戦し、日本代表も見てきた。やはり、心配になってしまうのはわれらが日本代表の行く末である。

本書は現代表監督の森保一がサンフレッチェ広島監督時代にしたためた1冊だ。この時の実績が評価され、代表監督になった彼にとって唯一の著書であり、指導者としての原点が、そして8年前の本であるが、現在の日本代表が迷走する理由が記されている。

私にとって──そして、少なくないフットボールファンにとって──物足りないのは、2022年ワールドカップアジア最終予選のゲームだ。現在、カタール大会出場を懸けた最終予選で自力突破が可能な2位につけてはいるものの、初戦でオマーンに(それもホームで)敗れ、サウジアラビアにも負けた。勝ったゲームはいずれも1点差で、明らかに格下である中国やベトナムからもうまく点を取ることができていない。見たかったのはワールドカップでベスト8に入るための戦いであり、アジアで一喜一憂する姿ではなかった。

停滞の原因は、采配の手数が乏しく、チーム内の序列が固定化していることにある。典型的な事例を挙げよう。現時点で言えば、調子を落としている大迫勇也よりも、スコットランドリーグで波に乗る古橋亨梧がワントップにはふさわしい。だが、起用時間は少ない。横浜Fマリノス(当時)で絶好調だった前田大然はベンチにすらいなかった。左サイドバックも精彩を欠く長友佑都より、東京オリンピックで適性を見せた中山雄太や、川崎フロンターレ(同)で良いプレーをしていた旗手怜央でも良かったはずだ。

森保は勢いある若手よりもベテランを優先している。それが一体なぜなのか。彼の言葉からは読み取ることができない。どうしてもメディアだけでなく、サポーターに向けても語彙が乏しい印象を受けてしまう。

森保はこの本のなかで、試合の結果に至ったプロセスはなるべく明かさないと書いている。それは選手起用も含め、プロの監督としてチームを守るためには必要なことかもしれない。だが、この部分はどうか。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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