コラム

話題書『ネットは社会を分断しない』は、単なる「逆張り」本なのか?

2020年02月07日(金)19時45分

Satoko Kogure-Newsweek Japan

<「ネットは社会を分断しない」は本当か――。ネットは社会の分断に寄与している、という従来の「ネット悪玉論」に異を唱える新説が登場した。だが、本当にそうなのか? 同書の「逆張り」にこそ異を唱えたい>

今回のダメ本

amazonnet.jpg

『ネットは社会を分断しない』
 田中辰雄、浜屋敏 著
 角川新書

困ったタイトルの本が出たな、というのが最初の感想だった。一応、断っておくと、同書による調査結果そのものが困ったという話ではない。上がってきたデータをどう子細に読み解くかが大事なのに、「インターネットで分断は進まない」という結論の新奇性に飛び付く人は絶対に出てくるだろうと思ったからだ。

「逆張り」──市場で、市場人気に逆らって売買すること(「日本国語大辞典」より)──好きはいつの時代もいる。典型的な困った書評は早速出た。2019年11月30日付の朝日新聞に掲載されたもので、執筆者は同紙論説委員の石川尚文である。

田中説への批判は多少は書いてあるものの、基本的には好意的に評しており、結論は「安易なネット悪玉論に対し、データを示して正面から疑義を突きつけた意味は大きい」と結ぶ。発売から間もなくして書評が出たことは、メディアが注目している証しだ。

私は筆者の1人である慶応義塾大学の田中辰雄教授(計量経済学)と、インターネットテレビの番組で1度議論した。その場で本人にも伝えたが、このデータを読み解く限り、「ネットは分断をもたらす」という多くの先行研究は覆せないと考えている。この本のベースになっているのは、3回にわたって筆者らが取り組んだ、2万~10万人規模のアンケート調査の結果である。

象徴的な結果と分析を紹介しておこう。彼らは「憲法9条改正」「原発廃止」といった、リベラル派と保守派で賛否が分かれそうな政治的イシューについて、調査を試みた。

その結果、ネットに多く触れている若年層のほうが、高齢者よりも分極化していないことが分かった。ネットが分断を呼ぶのであるならば、ネット利用に積極的な若い人ほど分極化していないとおかしいはずだ──。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story