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なぜEUは中国に厳しくなったのか【前編】米マグニツキー法とロシアとの関係
EUでは、2月からロシアに対して制裁を課すことを検討、ジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(外相に相当、以下、ボレル外相)は、2月22日に「ロシアは権威主義に突き進み、欧州から離れているという共通認識が(EU内に)ある」と記者会見で批判した。
そして3月2日、制裁を発表。プーチン大統領の側近ら4人に対して、EU域内への渡航を禁止、資産を凍結した。
EUとロシアの関係は、「どん底」と言われるまでにひどくなってゆく。
実はこの措置は、EUで12月に採択された「グローバル人権制裁制度」というものに基づいている。これが、第1号の制裁だった。この制度が後に中国に適用されることになるのだが──。
米マグニツキー法と、EUのグローバル人権制裁制度
EUは、人権侵害に責任があるとみなされる個人や団体に対して制裁を加える「法的枠組み」をもっていなかった。
これは、今まで制裁をしていないという意味ではない。「法的枠組み」がなかったのだ。
実際EUは、今まで30ヵ国以上の個人に対して、40以上の異なる制裁措置をとってきた。また、EUの国別制裁のうち、約3分の2は、人権や民主主義の目標を支援するために課されている。
しかし、法的枠組みがないということは、明確で透明性のある特定の基準がないということだ。さらにEUでは、もともと何事においても1カ国の政府や議会が決めるよりも時間がかかるのに、ましてや特定の基準がないと、一層ひどいという欠点がある。
EUで法律制定の動きが生じたのは、2012年12月に、オバマ大統領(当時)が署名した米国のマグニツキー法に触発されたためである。
セルゲイ・マグニツキー氏は、汚職を調査していたロシアの税理士で、2009年にモスクワの刑務所で、非人道的な環境と拷問に耐えながら亡くなった人物である。マグニツキー法によって、個人の制裁が法的枠組みで可能になった。
このような法的枠組みは、アメリカ、カナダ、EU内ではエストニア、ラトビア、リトアニアというバルト3国、そして英国で制定された。バルト3国はソ連内の国だっただけに、反応が鋭敏だ。
オランダでも制定するように議会が政府に働きかけたところ、政府は「この法律はEUレベルでつくるのが効果的だ」と結論付けた。
そして2018年末にオランダ政府は「グローバル人権制裁制度」のポジション・ペーパーを起草。国連の国際司法裁判所があるオランダのハーグで、EU加盟国の代表者を招いて、議論を行った。
2019年3月には、欧州議会が採択し、EUレベルの人権制裁体制を速やかに構築することを、閣僚理事会に要請している。欧州議会は「制裁体制について、セルゲイ・マグニツキーの名前を象徴的に掲げるべきである」とも提案している。
同年12月、ボレル外相は、EU加盟国が提案された体制について強い合意に達したことを確認したため、欧州対外行動庁(外務省に相当)が制裁体制のための文書の準備を開始することになった。
こうして2020年12月7日、閣僚理事会で「グローバル人権制裁制度」が規則として制定された。世界で、人権侵害に責任を追う個人・団体・国に対して、資産凍結やVISA停止などの制裁を課す法的枠組みが成立した。(6月には、制裁対象に汚職も追加された)。
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