コラム

なぜEUは中国に厳しくなったのか【前編】米マグニツキー法とロシアとの関係

2021年07月08日(木)20時32分
G7への抗議

G7開催中の6月13日、セント・アイブスでデモ隊が抗議行動 Peter Nicholls-REUTERS

6月13日、イギリスのコーンウォールでG7サミットが閉幕した。そこでの成果をまとめた首脳宣言で、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調したほか、新疆ウイグル自治区や香港情勢などで、人権や基本的自由を尊重するよう求めた。

G7には、全参加者9人のうち、5人を欧州連合(EU)の人が占めている(ブレグジット前は、9人中6人だった)。

国の代表としてマクロン仏大統領、メルケル独首相、そしてドラギ伊首相。それだけではなく、EUの欧州委員会委員長であるデアライエン氏、欧州理事会議長(大統領と呼ばれる)のミシェル氏も参加している。

G7の意志が、完全にEUの意志と一致するわけではないが(加盟国は27カ国あるので)、だいたい同じようなものと思っていいだろう。

中国は猛反発した。外務省の趙立堅報道官は15日の記者会見で「中国を中傷し、内政に干渉するものだ。アメリカなど少数の国が対立と溝をつくり、隔たりと矛盾を拡大させようという下心を露呈させている」と非難した。

最近、EUは大変中国に厳しい。不思議に思う読者が多いかもしれない。

2016年、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)を開業した。アメリカは猛反発、日本も反発して参加しなかったが、欧州の国々は、のきなみ参加した。

真っ先に参加したのはイギリスだったが、「乗り遅れるものか」といわんばかりに、フランスもドイツも他の欧州の国々も参加した(ちなみにカナダや韓国も参加している。北朝鮮は参加していない)。

そして2020年末、中国と欧州連合(EU)は投資協定を結んだ。7年間にも及んだ苦しい交渉の末、やっと合意に至ったのだ。

それなのに最近は、アメリカと一緒になって、中国を非難している。「欧米」の太く厚い絆が復活したかのように。

一体欧州に、何が起こっているのだろうか。

「なぜEUは中国に厳しくなったのか【後編】3つのポイント=バルト3国、中露の違い、ボレル外相」はこちらから

EUと中国の投資協定は、どう批判されたか

まず、一般にはあまり注目されなかったが、EUと中国の投資協定は、一時停止している。今年の5月20日、欧州議会が、批准に向けた審議を一時凍結することを可決したからだ。

今のEUの態度を知るには、欧州議会の動向を知ることがとても大事である。

2020年末に、急ぎEUと中国は、投資協定に合意した。そして2022年には批准されるはずだった。

しかし、当時からこの合意は、欧州議会では評判が悪かった。敵意から懐疑論まで、様々に批判されていた。態度が異なっていたのは、与党の中道右派会派「欧州人民党グループ」の中の保守派や、ドイツの議員くらいだったという。

批判には、主に二つの論点があった。

一つ目は、この協定はただの意思表示にすぎず、それ以上のものではないという批判だ。

投資協定に合意した欧州委員会はこう述べていた。「この協定は、物事を正常な状態に戻し、ルールを確立するものである」と。
中国で外国人が投資をするには、合弁会社を設立したり、技術移転をしたりしなければならない。また、企業を差別することも平気で行われている。中国の国家資本主義は、資本主義のルールに著しく反している。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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