コラム

19歳パレスチナ女性の未来を奪ったのは、イスラエルでなくハマスだった

2021年11月16日(火)18時16分
ガザ地区の住民

イスラエルでの働き口を求めて集まる人々(ガザ地区) IBRAHEEM ABU MUSTAFAーREUTERS

<パレスチナのあらゆる悲劇をイスラエルのせいと主張するメディアは多いが、実際に住民たちが感じていることとは大きな隔たりがある>

パレスチナのガザ地区に住む19歳の女性アファフは、トルコの大学で学ぶための奨学金を獲得し、必要な書類を全てそろえた。だが、ガザを実効支配するイスラム過激派組織ハマスの定めた「後見人ルール」に反していたためエジプト国境で追い返され、ガザから脱出することができなかった──。

AP通信は11月、このような記事を配信した。

「後見人ルール」は、イスラム教徒女性は後見人たる男性親族の付き添いなしに外出してはならない、というイスラム法の規定に由来する。ハマスはこれに基づき、女性がガザ領外に出るには後見人の許可を得ていなければならないとか、後見人は被後見人女性がガザ領外に出るのを止めることができるといったルールを適用してきた。

アファフは「正直、心が折れた」とAP通信に語った。彼女の未来を奪い、彼女をガザに閉じ込めたのはイスラエルではない。ハマスだ。

日本を含む世界中のメディアが、今もパレスチナのあらゆる悲劇はイスラエルのせいだと主張し続け、現実をその「鋳型」に閉じ込める報道に終始する傾向にある。しかしパレスチナでは今、アファフの事例のように、その鋳型では説明のつかない数々の事態が発生している。

イスラエル当局は今年9月、ガザ地区から7000人の労働者を受け入れると発表し、ガザの商工会議所にはイスラエルでの労働許可証を求め数万人が殺到した。彼らがイスラエルでの仕事を求めるのはガザに仕事がないからである。

ガザの経済状況は深刻だ。2021年の夏時点で失業者数は21万2000人に達し、失業率は約45%となった。サウジアラビアのテレビ局のインタビューに応じたガザ住民たちは、この15年間仕事も収入もない、生活が成り立たないと口々に語った。

支援金で贅沢な暮らしを送る

この現状はパレスチナを支配する自治政府とハマスの無策・無責任を露呈させている。彼らは国際社会から巨額の支援金を受け取っているにもかかわらず、人々の生活改善や雇用促進には全く無関心である一方、自らはカタールやトルコで贅沢な暮らしを送っている。

生活インフラを建設する代わりにイスラエルを攻撃するためのトンネルを掘り、ロケットランチャーを設置し、学校では和平や共存の代わりに武装闘争こそが正義だと教えている。彼らは悲劇の全てをイスラエルのせいにすれば、責任回避できると高をくくっているのだ。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story