コラム

驚愕のアメリカ漏洩事件!350件以上の最高機密文書が公開された理由とは?

2023年04月25日(火)10時10分

・アメリカの2枚舌政策の限界

アメリカはこれまで外交上あるいは軍事上などの必要から「言ってることとやっていることが違う」ことが多々あった。アメリカだけは例外という例外主義もある。政府内部の文書が簡単に漏洩する時代になると、2枚舌の露見は致命的なスキャンダルであり、安全保障上の脅威にもなり得る。民主主義国である以上、二枚舌を使っていることについて説明し、透明性を保持しなければならない。透明性を保つことで、最高機密扱いの文書の数は大幅に減り、アクセスできる人間も減る。結果として最高機密は本来あるべき数に戻る。しかし、そうは簡単にいかないのが現実のようだ。

この2つの問題はそのまま攻撃対象になり得る。今回は流出した情報をさらにロシアが改竄してネットに掲載した可能性が指摘されている。2016年のアメリカ大統領選ではロシアが民主党をハッキングして情報を盗み出してリークする事件があった。情報漏洩と情報戦の相性はいい。今後、情報漏洩が増えるならば、それはとりもなおさず、情報漏洩を利用した情報工作も増加することを意味する。

ロシアの文書漏洩

ロシアからは情報戦のためのシステムの資料Vulkan files、ベラルーシ併合計画、モルドバ不安定化作戦などさまざまな文書が漏洩している。ウクライナ侵攻への抗議のために漏洩させたものもある。

Vulkan filesは、ロシアの情報戦に対する考え方を如実に表していた。以前からロシアはあらゆるものを兵器とし、あらゆる場面を戦場とする戦いを繰り広げてきた。この戦いはハイブリッド戦、フルスペクトラムの戦いなどさまざまな呼び方をされる。

そのためサイバー戦と情報戦、国内と国外、攻撃と防御などの区別はなく、融合している。漏洩した文書Vulkan filesの中でもっとも大規模なシステムAmesitは社会インフラへのサイバー攻撃と情報戦を統合して実施するためのシステムとなっている。社会インフラをサイバー攻撃によって麻痺させ、SNSなどを通して情報戦を仕掛けて混乱を拡大することを狙っている。その対象は国外だけではなく、国内も対象だ。また、攻撃は同時に防御にもなっている。Vulkan filesの内容については拙noteに詳述した。

現在の戦いでは国外の敵国と戦うことは、同時に国内に存在する敵国と同調するグループと戦うことも意味しており、戦争と内戦に同時に対処しなければならない。この考え方はロシアだけでなく、中国でも同様であり、漏洩したシステムはこうした考え方を反映したものとなっていた。アメリカが想定する情報戦が国外の敵にフォーカスしているのに対し、中露は国内と国外の双方にフォーカスしている。

アメリカは国内にQAnonなどの陰謀論者、白人至上主義などのグループを抱えており、それらの多くは親ロシアであることは以前に記事でご紹介した。さらにグーグルなどのビッグテックはアメリカの国益に反する行動を取る。これらを放置すれば2021年1月6日に起きた連邦議会議事堂襲撃事件のような暴動がまた起きかねない。

ロシアを始めとする権威主義国は近年民兵組織やサイバー犯罪グループ、IT企業(サイバー兵器やスパイウェアを開発)、PR企業(情報戦を代行)などの非国家アクターを利用することが多くなってきている。こうした非国家アクターの中には情報管理が不十分なところもあり、そこから情報が漏洩するリスクが高くなっている。漏洩する原因は内部告発、仲間割れ、アメリカからのハッキングなどさまざまだ。アメリカとは異なるが、ロシアもまた構造的に情報漏洩が増加する問題を抱えている。

今後の情報漏洩と情報戦への利用

ロシアとウクライナの戦争はデジタル影響工作などの情報戦が本格的な戦闘で用いられる最初のケースとなった。単純な偽情報の流布に留まらず、さまざまな手法、さまざまな対象に情報戦が仕掛けられている。そのため以前の記事「ロシアが情報戦で負けたという誤解」で紹介したように専門家でも状況を読み違えることがあり、予想しなかったところでウクライナが支持されない現象も起きている。当初欧米は多くのグローバルサウスの国は中立で様子見をしているのだろうと考えていたが、そうではなく根深い欧米への不信感があることがわかった。

前述したように、アメリカとロシアの双方で構造的に漏洩が起きやすい状況になっている。今後もこうした漏洩が続く可能性は高く。それが情報戦に利用されることも増加しそうだ。


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ロのキーウ攻撃を非難 「ウラジミール、

ビジネス

米3月耐久財受注9.2%増、予想上回る 民間航空機

ビジネス

米関税措置、独経済にも重大リスク=独連銀総裁

ワールド

米・ウクライナ鉱物資源協定、週内に合意ない見通し=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 8
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story