コラム

暴かれた極秘プロジェクト......権威主義国にAI監視システムを提供する「死の商人」グーグル

2022年09月22日(木)16時30分

「グーグルは正義よりも人種差別を選んだ」広がる抗議活動

プロジェクト・ニンバスに対する抗議活動は広がり、さまざまなメディアが注目することとなった。Axioの記事によると、アルファベット労働組合(アルファベットはグーグルグループの親会社)が主催した記者会見では、グーグルに契約の停止を要求し、「グーグルは正義よりも人種差別を選んだ」、「道徳よりも金を選んだ」という言葉まで出た。

プロジェクト・ニンバスに反対するグーグルとアマゾンの社員たちはアメリカの4都市(サンフランシスコ、ニューヨーク、シアトル、ノースカロライナ州ダーラム)でデモを行った。

グーグルは、プロジェクト・ニンバスは金融、医療、交通、教育などの分野で使われるもので、諜報や軍事とは関係がなく、抗議している社員たちは誤解していると説明しているが、The Intercept_の資料では軍に提供されることになっていた。

こうした社員による会社への抗議はこれが初めてではない。2018年、グーグルの社員数万人がオフィスから抗議のために姿を消して、国際的な話題となったこともある。アマゾンの倉庫で働く従業員は同社で初めて組合を結成し、議員に書簡を送り、倉庫の安全性に関する公聴会を開き、CEOを召喚して証言させるよう要請している。

こうした社員の抗議には意味がある。今回のプロジェクト・ニンバスの契約には契約を解消できないという条項があるが、それでも契約をやめる可能性はあると抗議者たちは考えている。なぜなら、以前もグーグルは似たような契約を締結し、解消しているからだ。

中国に提供しようとしたプロジェクト・ドラゴンフライ

2018年8月1日、The Intercept_がグーグルの極秘プロジェクトであるプロジェクト・ドラゴンフライをスクープした。このシステムは中国のグレートファイアウォールがブロックしているサイトを自動的に認識し、フィルタリングを行う。特定の言葉のブラックリストにも対応しており、検索に含まれる言葉によっては、検索結果をまったく表示しない。

また、検索内容と電話番号をリンクするようになっており、これによって容易に問題ある検索を行った個人を特定できる。アクセスに利用したデバイスのIPアドレス、クリックしたリンクなどの過去の履歴、位置情報なども参照できる。

さらに、検索システムのインフラは中国国内にデータセンターを持つ中国のパートナー企業のものを利用するという。つまり、ほぼすべてのデータが中国当局につつぬけとなる。

このプロジェクトは極秘裏に進められていたが、内部告発によって広く知られることとなり、批判が殺到し、グーグルはやむなくプロジェクトを中断した。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story