コラム

北朝鮮に対する軍事攻撃ははじまるのか

2017年04月15日(土)18時58分

4月15日に平壌で行われた故金日成国家主席の生誕105周年を祝う軍事パレードの様子 Damir Sagolj-REUTERS

<緊張が高まる朝鮮半島情勢。トランプ政権の政策はまさに「力による平和」のアプローチである。その戦略、狙いとは?>

今年の1月20日にアメリカでトランプ政権が成立し、北朝鮮情勢についてアメリカが従来とは異なるアプローチをとるようになり、軍事力行使もオプションとして視野に入れていることが明確となってきた。ところが日本国内では朝鮮半島情勢に関する緊張感が欠落しており、従来と同様の情勢が続くことを前提に、朝鮮半島有事がすぐ近くまで迫っていることについてほとんど言及されることもなかった。

3月2日付けのウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事で、「米政権、北朝鮮への武力行使も選択肢に」という報道がなされて、アメリカ国内ではかなり広く、その可能性が示唆されるようになった。それでも日本の国会では安倍昭恵首相夫人の森友学園に関連する問題での追及に野党の民進党は夢中になり、日本の周辺で起こりつつある巨大な危機に対してはほとんど目を向けようとしてこなかった。

これはまさにデジャブであるかのようである。というのも、1993年から94年にかけての朝鮮半島危機で、北朝鮮の核拡散防止条約(NPT)脱退と、核開発の開始の宣言をうけて、アメリカのクリントン政権が北朝鮮への軍事攻撃開始へと向かっていったときに、日本国内は非自民連立政権成立に国民が熱狂して、驚くほど朝鮮半島情勢には無関心であったからだ。

当時も、軍人と民間人を合わせて100万人ほどの死者が生まれることが見積もられた。だが、集団的自衛権の行使が憲法上禁止されているという立場を内閣法制局が固持していたために、朝鮮半島有事の際にアメリカの同盟国の日本はほぼいっさいの支援が不可能な状況であり、それは日米同盟の崩壊に繋がりかねない危機でもあったのだ。

現在われわれのすぐ近くで起こっている緊張は、ようやく今月にはいって日本でも報道されるようになった。世界最強ともいわれる攻撃型空母カール・ビンソンを中核とした空母打撃群が北朝鮮近海に向かって、攻撃準備を進めるようになると、さすがに日本国内でもいままでとは異なる動きがあることに留意するようになったのであろう。

フロリダでの米中首脳会談で北朝鮮情勢について深く協議を行ってから、北朝鮮で太陽節(金日成主席生誕105周年)を迎える4月15日となり、米軍の朝鮮半島周辺への展開をともない、米朝間の緊張関係は一気に高まっている。

【参考記事】15日の「金日成誕生日」を前に、緊張高まる朝鮮半島

他方で、アメリカのワシントン・ポスト紙は、4月14日付けである報道を流している。以下は時事通信の記事からの抜粋だが、このタイミングでのこの報道は、かなり重要なものであると考える。

「米紙ワシントン・ポスト(電子版)は14日、トランプ政権が北朝鮮政策について、体制転換を目指すのではなく、核・ミサイル開発を放棄させるために「最大限の圧力」をかける方針を決めたと報じた。2カ月にわたる包括的な政策見直しを終え、国家安全保障会議(NSC)で今月承認されたという。」

プロフィール

細谷雄一

慶應義塾大学法学部教授。
1971年生まれ。博士(法学)。専門は国際政治学、イギリス外交史、現代日本外交。世界平和研究所上席研究員、東京財団上席研究員を兼任。安倍晋三政権において、「安全保障と防衛力に関する懇談会」委員、および「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」委員。国家安全保障局顧問。主著に、『戦後国際秩序とイギリス外交』(創文社、サントリー学芸賞)、『外交による平和』(有斐閣、櫻田会政治研究奨励賞)、『倫理的な戦争』(慶應義塾大学出版会、読売・吉野作造賞)、『国際秩序』(中公新書)、『歴史認識とは何か』(新潮選書)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story