アングル:トランプ氏が法律事務所に「個人的報復」、司法制度危うくすると批判も

トランプ米大統領(写真)は、幾つもの大手法律事務所に対して大統領令を通じて機密情報のアクセス制限といった締め付けを行っている。3月7日、ワシントンで撮影 (2025年 ロイター/Leah Millis)
Mike Scarcella
[ワシントン 26日 ロイター] - トランプ米大統領は、幾つもの大手法律事務所に対して大統領令を通じて機密情報のアクセス制限といった締め付けを行っている。共通する動機として垣間見えるのは個人的な恨みを晴らそうという姿勢で、米国の司法制度を危うくするとの批判が聞かれる。
直近では法律事務所のジェナー・アンド・ブロックが標的になった。元パートナーのアンドリュー・ワイスマン氏が、2016年の米大統領選におけるトランプ氏とロシアの不透明な関係に絡む疑惑を特別検察官として捜査していたロバート・モラー氏のチームの一員だったためとみられる。
トランプ氏は25日、大統領令へ署名する直前にワイスマン氏について「彼は悪い男だ」と言い放った。大統領令では、ジェナー・アンド・ブロックがトランスジェンダーや移民の権利擁護を法的に支援したことなどもやり玉に挙げられた。
別の法律事務所ポール・ワイスへの大統領令は、トランプ氏の政策支援に協力する条件で撤回されている。元パートナーのマーク・ポメランツ氏は、トランプ氏および同氏の事業面での行動を調査していた。
法律事務所パーキンス・クイもトランプ氏の怒りの対象になった。16年の大統領選本選でトランプ氏の対立候補だった民主党のヒラリー・クリントン氏の陣営のために、トランプ陣営とロシアの金銭的・個人的つながりについての文書作成を調査会社フュージョンGPSに依頼した。
パーキンス・クイは大統領令撤回を求めて起こした訴訟の審理が12日に開かれ、担当した連邦地裁の判事は「トランプ氏はけんか腰を続け、フュージョンGPSの件を私たちに忘れさせたくないようだ。彼はそのことにこだわり続けている」と個人的な復讐心を指摘した。
こうした中で民主党系の20州の法務長官は26日、米国の法曹界に宛てた公開書簡でトランプ氏の法律事務所攻撃を「わが国の司法制度と法曹界に対する明らかな脅威」だと非難。トランプ氏が自身の行動に異議を唱えた顧客を代表したとの理由で、弁護士個々人を名指しして標的にしていると付け加えた。
さらにポール・ワイスがトランプ氏の意向におとなしく従ったことは、大統領令が法曹職に「萎縮効果」をもたらしている証拠だと懸念を示した。
ポメランツ氏は、トランプ氏訴追に向けた自分の取り組みは完全に合法的だったと主張した上で「重要なのは私に関する大統領の発言ではなく、彼が何事においても自分に反対する人々をつぶそうとしていることにある」と述べた。
ジェナー・アンド・ブロックは25日、大統領令撤回に向けて「あらゆる適切な対応策」を講じていくと表明した。
これらの法律事務所に発出された大統領令は、セキュリティー・クリアランス(適性評価)を経て認められる機密情報の取り扱い停止や、政府施設への立ち入りや政府職員との接触制限などが盛り込まれた。
ホワイトハウスのハリソン・フィールズ報道官は、大手法律事務所が自分たちの力を利用して「米国を危険で自由の少ない国にしようとしている」と主張した。
トランプ氏は、大統領1期目とバイデン前政権の時代を通じて法律事務所が司法制度を「武器」にして同氏やその側近と対立してきたと説明。9日のFOXニュースの「サンデー・モーニング・フューチャーズ」では、政権としてこれから多くの法律事務所を狙い撃ちにすると明らかにした。
またトランプ氏は先週の覚書で、さまざまな法律事務所と弁護士を対象に、過去8年で政府を相手取った訴訟を起こしたかどうか司法省に調査するよう指示している。
そこで名指しされた1人がパーキンス・クイの元パートナーで長年民主党政治家のために働いてきた弁護士のマーク・エリアス氏で、トランプ氏とロシアの関係を記した文書作成において「倫理に反する不正行為」があったと非難された。
エリアス氏は25日、ソーシャルメディアに「トランプ氏からの軽蔑はむしろ名誉の証だと受け止める」と投稿した。
ジェナー・アンド・ブロックで勤務経験があるミシガン大学のリチャード・プリマス教授は、トランプ氏の大統領令は自らの利益になることに反対する弁護士は苦境に置かれるとはっきり示すのが狙いだとの見方を示した。
プリマス氏は「ある面で復讐のプログラムだ。政権は、大統領が自分個人に敵対的と見なす法律事務所を標的にしようとしている」と述べ、トランプ氏には司法制度の健全性など眼中になく、評価するのは自身の権力と利益だけだと切り捨てた。
「トランプ氏は反対(意見の)法的な正当性など認めていない。自分に反対すれば即違法で、排斥して処罰し、犯罪者として扱おうとする」