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情報BOX:大ナタ振るうマスク氏のDOGE、その役割と影響

2025年03月25日(火)17時56分

3月24日、トランプ米政権発足からわずか9週間のうちに、複数の連邦機関が解体され、230万人を数える連邦政府職員のうち、数万人が解雇されるか早期退職に同意した。写真はマスク氏とトランプ米大統領。ホワイトハウスで2月撮影(2025年 ロイター/Kevin Lamarque)

Tim Reid

[ワシントン 24日 ロイター] - トランプ米政権発足からわずか9週間のうちに、複数の連邦機関が解体され、230万人を数える連邦政府職員のうち、数万人が解雇されるか早期退職に同意した。トランプ米大統領は、政府効率化省(DOGE)を事実上率いてこうした政府機関の「縮小」を主導した大富豪イーロン・マスク氏を称賛しているが、批判派は、DOGEがトランプ氏から絶大な権力を与えられ、何の監督も受けずに秘密裡に行動していると主張している。  

DOGEによる措置に対して起こされた複数の訴訟からはその活動の一部垣間見えるが、さらに多くの疑問も浮かんでくる。マスク氏が実際にDOGEの責任者なのかという点も明確ではない。ホワイトハウスが提出した訴訟書類ではマスク氏にはDOGEに関する権限がないとしているが、トランプ氏はマスク氏が責任者だと述べている。

<「DOGE」とは何か>

DOGEは、トランプ氏が就任初日の1月20日に署名した大統領令によって創設され、「連邦政府の技術とソフトウェアを近代化し、政府の効率と生産性を最大化する」ことを目的としている。

「Department(省)」を名乗るものの、連邦議会が制定する法律に基づき創設される連邦政府の「省」ではない。ホワイトハウス内の既存部門「米国デジタルサービス」を改組した期間限定の組織だ。

2026年7月4日までの期限付きのDOGEの任務は、今や当初の大統領令における表現の範囲を大幅に超過し、そのメンバーはあらゆる連邦政府機関に立ち入り、削減できる歳出や職員を探している。

ホワイトハウスによれば、世界一の資産家であるマスク氏は、政府から給与を受け取らない任期130日以内の「特別政府職員」であり、連邦政府官僚組織の再編を担うという。だがマスク氏は3月にフォックスニュースに対し、さらにもう1年この仕事を続ける可能性があると述べている。

DOGEの厳密な責任者は誰なのかという裁判官からの質問に対し、ホワイトハウスは、医療テクノロジー企業幹部の経歴を有するエイミー・グリーソン長官代行の名を挙げた。

グリーソン氏は3月19日付けの訴訟書類の中で、マスク氏はDOGEで勤務していないと述べている。「私はマスク氏の部下ではないし、マスク氏は私の部下ではない。私の知るかぎり、マスク氏はホワイトハウスの上級顧問である」とグリーソン氏は述べている。  

ところがトランプ氏は3月4日、連邦議会での演説で「(DOGEを)率いているのはイーロン・マスク氏である」と述べている。またマスク氏は、トランプ政権の閣議に少なくとも2回参加し、大統領執務室での記者会見でもDOGEの業務に関する説明を担当している。

訴訟書類におけるグリーソン氏の説明では、DOGEチームは小規模で、任用職員が約79人、他の省庁からの出向組が10人いるという。

グリーソン氏は、「DOGEのチームメンバーは全員、DOGEに雇用されるか、(他省庁からの)派遣された者だ」と述べている。さらにグリーソン氏は、DOGEのメンバーは各省庁の上長の指揮に従い、同氏やDOGEの別のメンバーの指揮で動いているわけではないとしている。

スタッフの多くはマスク氏経営の企業の現・元社員である若手ソフトウェア技術者だ。連邦政府内での経験はほとんどない。

マスク氏は、連邦支出の1兆ドル削減が目標だと述べている。今年の連邦政府予算は約7兆ドルに達している。

<DOGEによる「支出削減」の現実>

DOGEの唯一の公式窓口であるウェブサイトによれば、DOGEは連邦職員の削減や資産の売却、契約の停止といった一連の活動により、3月24日の時点で米国納税者の負担を1兆1500億ドル削減したと試算している。

だが削減総額は検証不可能で、削減額の試算にはエラーや訂正が多い。

DOGEはウェブサイトの「レシート」セクションにおいて、納税者にとって最大の節約と主張していた項目の削除を繰り返している。たとえば打ち切りにより80億ドルを節約したと報告されていた契約は、後にわずか800万ドルの価値しかなかったことが判明している。

マスク氏は、間違いが発見された場合には修正すると述べている。

<DOGEがやってきたこと>

マスク氏率いるチームは連邦官僚機構の各所で削減を進めており、一部の政府機関は閉鎖され、多くの連邦政府職員のあいだでパニックの気配が生まれている。

現時点までにDOGEメンバーは20以上の政府機関に立ち入り、現・元連邦政府職員だけでなく、何百万人もの米国民に関する個人データを含むコンピューターシステムへのアクセス権を取得している。

DOGEは2月、連邦政府の人事部門である人事管理局(OPM)を通じ、連邦政府職員に早期希望退職を促す通知を送った。ホワイトハウスによれば、約7万5000人がこの勧奨に応じたという。

またDOGEはこれ以外に、少なくとも2万5000人の政府職員を解雇または停職処分とした。まず標的となったのは、法的保護の弱い試用期間中の職員だった。

トランプ政権は24日、試用期間中の職員数千人の復職を求めた連邦地方裁判所判事の命令を阻止するよう、連邦最高裁判所に要請した。

トランプ氏は2月、連邦省庁のトップらに、3月13日までに連邦政府職員を「大幅に削減する」DOGEの計画に協力するよう求める大統領令に署名した。関係者によれば、ホワイトハウス当局者は現在、こうした計画の見直しを進めているという。

<DOGEの標的となった政府機関>

世界各地の困窮者にとって生命線となる援助を提供してきた国際開発局(USAID)は閉鎖され、数千人の職員が休職となった。

もう1つ、悪徳金融業者から米国民を保護する消費者金融保護局(CFPB)も閉鎖された。CFPB職員の多くは解雇通知を受け取った。

CFPBはマスク氏が経営する電気自動車メーカー、テスラのローン契約に関する苦情を審査しており、利益相反の疑いが生じている。またDOGEは、マスク氏が経営する複数の企業が数十億ドル規模の政府契約を結んでいる連邦航空宇宙局(NASA)にも介入している。

3月17日、DOGEチームは連邦議会が資金を提供する非営利機関の米国平和研究所(USIP)に立ち入った。DOGEスタッフが強引に施設内に乱入しワシントン警察が呼ばれる事態を招いたとして訴訟となっている。ホワイトハウスは、USIP職員が大統領に反抗的であったと非難している。

天気予報や気象データを提供している海洋大気局(NOAA)、定年退職者や障害者への給付を担う社会保障局(SSA)、徴税を担う内国歳入庁、退役軍人への恩給を管理し医療を提供する退役軍人省といった連邦機関でも、数万人の職員が人員整理の対象となっている。

(翻訳:エァクレーレン)

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