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アングル:カナダで農家保護制度の欠陥あらわ、取引業者の破綻増

2025年02月15日(土)08時12分

 2月12日、カナダ中部サスカチュワン州ウィローブルックの穀物農家ビル・プリビルスキさんは昨年初め、収穫物を穀物取引業者2社に売却した資金で新しいトラクターを購入する計画だった。写真はアルバータ州ヘロントンの農場で撮影されたオーロラ。2024年10月撮影(2025年 ロイター/Todd Korol)

Ed White

[レジャイナ(カナダ・サスカチュワン州) 12日 ロイター] - カナダ中部サスカチュワン州ウィローブルックの穀物農家ビル・プリビルスキさんは昨年初め、収穫物を穀物取引業者2社に売却した資金で新しいトラクターを購入する計画だった。

ところが穀物を引き渡した後でこの2社が経営破綻したため、プリビルスキさんには16万5000カナダドル(約1790万円)の代金が支払われず、トラクター買い換えの資金は手に入っていない。

カナダでは干ばつや農産物価格低迷を背景に破産宣言する取引業者が増加しつつあり、プリビルスキさんのように後払い方式のせいで収穫物の代金を先送りされたり、支払われないなどの農家が何百戸にも上っている。ロイターは農家や政府機関への取材や、破産書類の読み込みなどを通じて、こうした実態を明らかにした。

業者の破綻に際して農家が必ずしも守られないことも分かり、同国の農家保護制度の欠陥も浮かび上がりつつある。

次の収穫期の秋まで借り入れで資金不足に対応しているプリビルスキさんだが、作付け時期が近づく中で肥料や種子、燃料を買う必要にも迫られ「どの部分で出費を減らし、必要な作業をするためにどうやってより多くの収入を得れば良いのか」と頭を抱える。

カナダでは農家が収穫物を取引業者に引き渡してから、代金を受け取るまで数週間の時間差があるのが一般的。その間に業者が破綻すれば問題が生じる。

農家は、連邦政府が運営するカナダ穀物委員会(CGC)からある程度の金銭的な補償は受けられる。CGCは農産物取引の規制や取引業者の支払い監視に従事しており、時には農家が破綻業者に対して抱える債権をカバーしてくれる。CGCが補償の財源とするのは、認可業者が差し入れを義務づけられた債券などの担保有価証券だ。

政府統計に基づくと、CGCが昨年取り扱った業者の破綻は4件と、少なくとも2001年以降では最多。ほとんどの年はゼロか1件程度で推移してきた。

ただ、これまでに無認可の業者も幾つか破綻しており、問題が広がっている様子もうかがえる。

昨年11月25日に破産宣言した業者のアグフィニティから収穫物の代金支払いを引き延ばされた中西部アルバータ州農家のクリスティ・フリーセンさんは、最終的に代金7万5000カナダドルと経過利息を受け取った。しかし、「(相手と)戦わなければならず、常に不快な気分にさいなまれた」と振り返る。

アグフィニティは無認可業者の1つで、これらの破綻や、一部認可業者との取引でさえ完全に補償が得られるわけでないと判明したことで、農家には警戒感が生じている。「われわれは安全でない事実があらわになった」との声も聞かれる。

法令では農家から収穫物を直接買い取る業者はCGCから必ず認可を得なければならず、例外はほとんど認められない。もっとも、CGCは法執行手続きに際して別の機関に申し立てる必要がある。広報担当者の話では少なくとも過去7年間、CGCはそのような申し立てをしていない。

また、農家保護の面で別の制度的欠陥として、農家側に90日以内の未払い報告を義務づけている点なども挙げられている。

CGCの広報担当者は「われわれは(現実と制度の間に)ギャップが存在すると承知している」と述べ、農家側と保護制度について協議していると明らかにした。

<干ばつに苦しむ取引業者>

カナダで穀物栽培が盛んな平原地帯の西半分にいる農家は、干ばつの影響でこの4年間、作物の生育不全に悩まされてきた。一部の地域では、1930年代以降で最悪の長さになった干ばつに見舞われているという。

アルバータ、サスカチュワン両州当局によると、2021年から昨年までに支払われた農業保険金総額は、それ以前の4年に比べて7倍に膨れ上がった。干ばつで収穫量が打撃を受けたことが理由だ。

カナダの場合、穀物買い取りに従事するのは多数の中小業者で、世界的な大企業が市場を支配する幾つかの国とは事情が異なる。

これらの業者の1つで破綻したアグフィニティを所有するジョセフ・ビレット氏はロイターに、収穫量減少による売上高の落ち込みと農家が低価格で販売したがらないこと、飼料用作物として米国産トウモロコシとの競争激化に伴い、過去数年は収益確保が不可能になったと説明した。

農産物価格の低迷に苦しんでいるのは米国の農家も同じだが、米国の作物はカナダより生育状態が良好でその分収入を確保できている。また、米国の一部は州政府が穀物取引業者を規制し、未払いに対して農家が保護される仕組みがある。

ロイター
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