アングル:メキシコ大統領が麻薬組織対応に軍動員、トランプ政権にらみ強硬策か
メキシコのシェインバウム大統領(写真)は、北部シナロア州で増加する麻薬カルテルの暴力犯罪に対処するため、治安部門の最高責任者と数千人の軍部隊を派遣した。11月6日、メキシコ市で撮影(2024年 ロイター/Raquel Cunha)
Lizbeth Diaz
[メキシコシティ 24日 ロイター] - メキシコのシェインバウム大統領は、北部シナロア州で増加する麻薬カルテルの暴力犯罪に対処するため、治安部門の最高責任者と数千人の軍部隊を派遣した。同国の治安戦略が変化しつつある。
大統領選挙期間中、シェインバウム氏は、治安政策でロペスオブラドール前大統領の路線を踏襲すると公約した。つまり、カルテル制圧よりも犯罪を生み出す社会的要因への対処を優先する政策で、前大統領のキャッチフレーズに基づいて「銃弾でなく抱擁を」政策と呼ばれてきた。
だがシェインバウム大統領の就任から数カ月経った今、より攻撃的なアプローチの兆候が現われている。9月にカルテル内部抗争が始まって以来、過去6年間で最大規模の陸海軍部隊と特殊部隊が、重火器を装備してシナロア州に派遣された。
そして著名なカルテル幹部が逮捕され、過去最高となる1トン以上のフェンタニルを含む大量の麻薬が押収された。
以前より積極的な戦略は、メキシコに麻薬と移民の米国への流入防止策の強化を求めるトランプ次期米大統領から歓迎される可能性がある。だが、麻薬カルテルが正規軍並みの装備を供えているメキシコでは、過去もそうであったように、さらなる暴力と殺人を煽ってしまうリスクがある。
シェインバウム大統領のオフィスにコメントを要請したが、回答は得られなかった。
メキシコにおける調査研究の質向上に取り組んでいる政府機関「全国捜査官システム」に参加する治安専門家ビンセント・サンチェス氏は、「明らかに変化が生じている。『銃弾でなく抱擁を』戦略は終わりを告げつつある」と語る。
治安専門家は、この新たな戦略は、トランプ氏の「麻薬密輸と不法移民対策を強化しなければメキシコからの輸入品に25%の関税を科す」という圧力に対応するものだと指摘する。
また一部には、ロペスオブラドール前大統領のカルテルとの対決色を薄めた戦略の失敗を間接的に認めるものだ、という見方もある。「抱擁」戦略によって犯罪グループが広範囲に浸透してしまったと指摘する専門家は多い。
米国のケン・サラザール駐メキシコ大使は、オブラドール前大統領のアプローチを公然と批判しており、「(戦略は)失敗に終った」、「現時点でメキシコは安全でない」と非難した。
<一般道にも兵士の姿>
治安専門家の中には、今回のシナロア州での作戦を、2006年にカルデロン大統領が麻薬カルテルに対して軍を動員した際の状況と重ね合わせる見方がある。このときは暴力の連鎖が起き、多くのアナリストは、これがメキシコで高い殺人発生率が続く発端になったと考えている。
国連は、メキシコで犯罪対策として軍が動員されることが人権侵害を悪化させているとして、繰り返し批判している。
シェインバウム氏の犯罪撲滅戦略の鍵となるのは、新たに治安・市民保護省長官となったオマル・ガルシアハルフッチ氏だ。経験豊富な警察出身者で、メキシコ市長時代のシェインバウム氏を支えていた。大統領は同長官を作戦指揮のためにシナロア州に派遣した。
長官は先週、シナロア州で自省所属の捜査官が殺害されたことを受けて、「この国を平和にすることがどれほど困難かは承知している」と語った。9月9日以降、シナロア州での組織間の対立が激化し、約650人が殺害され、多くが行方不明になっている。抗争を抑え込むため、12月半ばには地元の治安責任者は軍将校に交代した。
また同時期には、西部ミチョアカン州の2カ所で、犯罪組織が仕掛けた地雷により少なくとも兵士3人が殺害された。
一部の専門家は、シェインバウム大統領がシナロア州における戦略を全国に広げようとするのは危険だ、と指摘する。
同州の治安問題に詳しいトマス・ゲバラ氏は、「犯罪組織にはそれぞれ個性があり、特徴がある。それぞれの弱みを見極める必要がある」と語る。
(翻訳:エァクレーレン)
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