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焦点:展望開けぬガザ停戦、ハマス指導者殺害でも バイデン氏影響力低下で

2024年10月18日(金)13時31分

 バイデン米大統領は、イスラム組織ハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏が殺害された機会をとらえ、イスラエルにパレスチナ自治区ガザでの戦闘終結を強く働きかけるだろう。しかし大統領としての任期が終わろうとしているバイデン氏は、もはやイスラエルのネタニヤフ首相に行使できる影響力を失っているかもしれない。ホワイトハウスで7月25日撮影(2024年 ロイター/Elizabeth Frantz)

Matt Spetalnick Jonathan Landay

[ワシントン 17日 ロイター] - バイデン米大統領は、イスラム組織ハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏が殺害された機会をとらえ、イスラエルにパレスチナ自治区ガザでの戦闘終結を強く働きかけるだろう。しかし大統領としての任期が終わろうとしているバイデン氏は、もはやイスラエルのネタニヤフ首相に行使できる影響力を失っているかもしれない。

昨年10月のハマスによるイスラエル奇襲攻撃の首謀者とされるシンワル氏の死を受け、バイデン氏が長らく提唱してきたガザの停戦とハマスに拘束されたイスラエルの人質の解放に向けた交渉再開に弾みがつくのではないかとの期待が高まっている。

ただバイデン氏が複雑に絡み合った中東地域のさまざまな危機に直面する中で、ガザに平和が戻せるかどうかは極めて不透明だ。

イスラエルはハマスとの戦闘と並行してレバノンで親イラン民兵組織ヒズボラへの攻撃を続けているほか、今月イスラエルに大規模なミサイル攻撃を行ったイランへの対抗措置も準備中。こうした緊迫した事態を背景にバイデン氏が目指すガザでの停戦は、なお前途多難が予想される。

シンクタンクのアトランティック・カウンシルに所属し、かつて米情報機関で中東担当の副責任者を務めたジョナサン・パニコフ氏は「バイデン氏にとっては、シンワル氏の死でネタニヤフ氏に(ガザ)停戦協定の第1段階履行を強く迫る道筋が再び開けた。(もっとも)双方が敵対関係を解消できるかは、ハマスの新指導者と、ネタニヤフ氏が最終的に勝利宣言をして取引に応じる意思にかかっている」と述べた。

そして11月5日の米大統領選が近づき、バイデン氏の任期が残り少なくなっている状況で、バイデン氏が自らの要求をネタニヤフ氏に十分尊重させるのは難しいのではないか。

バイデン政権は今週、イスラエルに武器供給制限をちらつかせつつ、ガザの人道状況を改善しなければならないと警告したが、米政府がその警告にどこまで強い実効性を持たせられるかも分からない。

複数の専門家によると、ネタニヤフ氏がバイデン氏の任期が切れる来年1月まで時間を稼ぎ、民主党候補のハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領のどちらが選挙で勝つにしても、次期大統領と関係を仕切り直す方に賭けるのではないかという。

戦略国際問題研究所(CSIS)のジョン・オルターマン(元米国務省高官)は、バイデン氏の圧力にネタニヤフ氏が屈し、エジプトとカタールが仲介する交渉を再開するシナリオの実現には悲観的だ。

「ネタニヤフ氏は凄腕のギャンブラーのようで、彼の頭の中では、過去半年で普通の人々が正気でないと口にしていた全てのリスクテークが実を結んでおり、最大の成果はシンワル氏殺害だ」と述べた。

<温度差>

ガザ停戦と人質解放を巡り、バイデン政権はシンワル氏が主な障害だと非難してきたが、何人かの米政府高官は非公式の場では、ネタニヤフ氏が連立政権内の極右派閣僚をなだめるため、妥協を排し、ころころと要求を変えていると苦言を呈している。

ネタニヤフ氏はシンワル氏殺害について、「邪悪な」ハマスへの「復讐を果たした」と語りつつ、ガザでの戦争は終わったわけでなく、イスラエルは人質が戻るまで戦い続けると主張した。

その直後にバイデン氏は、ハマス指導部を壊滅させるイスラエルの権利を支持しながら、ネタニヤフ氏と「この戦争を永久に終わらせるための」道筋を協議すると述べた。

こうしたネタニヤフ氏とバイデン氏の発言の食い違いは、ガザでの戦闘方針に関する温度差を反映しており、今後あつれきが深まりかねない。

複数の専門家は、シンワル氏の死で確かにネタニヤフ氏はより柔軟な姿勢で交渉に臨める政治的な基盤を得たものの、ハマス氏と何らかの合意締結に動けば、以前の停戦条件に反対していた極右派閣僚から猛烈な抵抗に見舞われる公算が大きいとみている。

ハマスの組織内で絶対的な影響力を持っていたシンワル氏に代わる指導者が不明な点も、ガザ停戦の雲行きを怪しくする。誰が交渉の窓口役になり、決定権限を持つ人物が誰なのかは今のところ判明していない。またどの後継者候補にも、シンワル氏ほどの存在感は見当たらない。

ワシントンのシンクタンク、中東研究所のブライアン・カテュリス上席研究員は「実際問題として、ハマスの指揮系統が混乱する中で1人の人物が停戦を履行し、達成するのは本当に難しい」と指摘した。

イスラエル側からすると、指導者不在のハマスに対して攻撃の手を緩めるよりも、さらに打撃を与える好機だとの考えられることも、戦闘激化の可能性を高める要素だとの声も出ている。

ロイター
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