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アングル:近づく米大統領選、過激さ増すトランプ氏の移民批判

2024年10月07日(月)10時44分

 米大統領選の共和党候補トランプ前大統領の陣営は9月27日、激戦州の1つである中西部ミシガン州のある工場で選挙集会を企画した。いざトランプ氏の演説が始まると、冒頭から25分間にわたって聴衆は国境の安全と移民流入の問題を耳にすることになった。10月3日、同州で撮影(2024年 ロイター/Brendan McDermid)

James Oliphant

[ワシントン 4日 ロイター] - 米大統領選の共和党候補トランプ前大統領の陣営は9月27日、激戦州の1つである中西部ミシガン州のある工場で選挙集会を企画した。側近が事前に通知していた同氏による演説の議題は、この地域が物価高騰に打ちのめされた点を踏まえた地元経済に関するものだった。

ところが当日、いざトランプ氏の演説が始まると、冒頭から25分間にわたって聴衆は国境の安全と移民流入の問題を耳にすることになった。しかも、そこで鮮明になったのは、大統領選が終盤に突入する中で、トランプ氏の言い回しが次第に過激さを増しているという事実だ。

トランプ氏は、米国の国境全体を越えて移民が押し寄せ、合衆国市民を大量に虐殺しつつあるという根拠のない主張を展開。「この連中はあなたののどを切り裂いて、翌朝にはそのことを考えようともしない最高レベルの殺人者たちだ。若い女の子をつかまえて彼女の両親の前で切り刻む」と語った。

こうしたトランプ氏の行動の背景には、複数の世論調査で多くの有権者、とりわけ共和党員からの手応えがあることが示されていることがある。

トランプ氏は何年も前から移民を侵略者で犯罪者のように描写し、2017─21年の大統領任期中は合法、違法を問わず世界各地からの移民受け入れを厳しく制限した。今回の選挙戦でも、当選すれば米国史上で最大規模の強制送還を行うと公約している。

そして大統領選がトランプ氏と民主党候補ハリス副大統領の大接戦の様相を呈していることに伴い、トランプ氏の移民攻撃はより恐ろしげでグロテスクになった。トランプ氏を批判する人たちに言わせれば、人種差別主義者が使うフレーズがさらに強化され、何百万人もの移民が流入してくるのではないかという共和党員の恐怖につけ込もうとしている。

実際にはバイデン政権が移民の新規流入を厳しく制限する措置を実施しているし、そもそもトランプ氏は今年、議会における超党派の国境警備強化法案の成立阻止に加担した経緯がある。

<荒廃した難民キャンプ>

今年8月までトランプ氏は、移民を「殺人者」「テロリスト」などと呼んでいたが、あくまで一般的な表現で満足していた。しかし今は、米国の女性が移民による犯罪の犠牲者になっていると根拠のない説明をする上で、「どう猛」「捕食者」などとおぞましい表現を用いている。ある米国の小さな町を「荒れ果てた難民キャンプ」にたとえた。

陣営の広報担当者は「トランプ氏は不法移民の手によって子どもを失う悲劇に耐える家族がこれ以上出ないよう万全を期すために戦っている。彼だけが米国を再び安全にする」とコメントした。

ただ、複数の研究調査結果を見ると、米国で生まれ育った人たちより移民の犯罪率が高くなっているわけではないことが分かる。

移民の権利擁護団体は、トランプ氏が失業や医療アクセス、学校や住宅の不足といった米国が抱える長年の懸案を全て移民のせいにしようとする姿勢も強めている、と非難する。

技能の低い移民増加が、米国内の高卒資格のない労働者の賃金を押し下げている面はある。とはいえ、移民がいなければ米国の労働力人口は高齢労働者の引退で落ち込むだけになったとみられる。

学歴が相対的に低い白人男性のほとんどが支持するトランプ氏はここ数カ月、選挙権を持たない不法移民による大量の投票で自身が敗北しかねないとの「予防線」も張り始めた。これもほとんど根拠のない主張だ。

移民制度の改革を提唱する「アメリカズ・ボイス」のエグゼクティブディレクター、バネッサ・カルデナス氏は「トランプ氏の言い方はより残忍で、人間味が薄れてきており、怒りと嫌悪を巻き起こすことを狙っている。ある集団全体を人間未満に描いている」と憤る。

トランプ氏は、あえて合法的な移民と不法移民の境界をあいまいにしようともしてきた。先月には中西部オハイオ州スプリングフィールドで暮らすハイチからの合法的に移民に対しても、住民のペットを食べているという事実と異なる発言を行った。

<より暴力的に>

トランプ氏は中西部ウィスコンシン州の町で最近開いた集会では、移民が合衆国市民をレイプや略奪、盗み、不法占拠、殺害の対象にしようとしていると訴え、彼らは「あなたの台所に侵入してのどをかき切る」と断言した。

さすがにこの場ではすぐ言い過ぎだと思った様子も見えたが、次の日には東部ペンシルベニア州の集会で不法移民が子どもを含めたレイプに関与した幾つかの例を示すなど、明確な証拠もなしに全ての移民が脅威だとみなす基本的な態度に変化はない。

トランプ氏はこうした集会で、主として若者、またはしばしば白人や女性に対する移民の犯罪を詳しく言及している。それは米国で長年にわたって蓄積されてきた有色人種の危険性に関する固定観念(ステレオタイプ)にとらわれた語り口だ。

2015年からトランプ氏の演説内容を分析してきたカリフォルニア大ロサンゼルス校のダニエル・トレイスマン教授は、16年の大統領選に出馬して以降、トランプ氏は一貫して暴力的な言葉を容認する傾向が強まってきたと話す。

教授によると、特に最近のペンシルベニアでの発言はこれまでで最も過激な表現の1つで、16年や20年の演説よりもずっと暴力的だったという。

こうした中で、トランプ氏の移民と犯罪を結びつける狙いは一般の人々に浸透しつつあるように見受けられる。

医療政策に関する調査会社のKFFが先月公表した世論調査では、「移民流入が暴力犯罪増加につながっているという虚偽情報を聞いた」との回答は80%に達した。「移民が雇用を奪って失業率増加を招いているという話を聞いた」と答えた割合は74%だった。

また無党派層の53%は、移民と犯罪増加の因果関係は「確かな真実ないし恐らく真実」だと述べた。

ロイター
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