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焦点:新財務相に加藤氏、解散にらみアベノミクス色 近く補正予算編成

2024年09月30日(月)18時22分

 10月1日に発足する石破茂内閣の財務相に、加藤勝信元官房長官(写真)を起用する人事が固まった。都内で14日代表撮影(2024年 ロイター)

Takaya Yamaguchi Kentaro Sugiyama

[東京 30日 ロイター] - 1日に発足する石破茂内閣の財務相に、加藤勝信元官房長官を起用する人事が固まった。経済対策を裏付ける財源を確保するため、近く2024年度補正予算の編成に着手する。衆院解散・総選挙をにらみ、大規模な金融緩和と積極的な財政出動を柱とするアベノミクス色をにじます人選とした側面もありそうだ。

<「アベノミクスは国政選挙6連勝」>

加藤氏は、1979年に大蔵省(現財務省)に入省。国債課(当時)や主計畑を歩んだ。95年に退官し、加藤六月衆議院議員の秘書を経て2003年に初当選した。

閣僚経験も豊富で、15年の第3次安倍晋三第1次改造内閣で1億総活躍担当相を務めた。17年の第3次安倍第3次改造内閣では厚生労働相に就任。20年の菅義偉内閣では官房長官を経験した。働き方改革などで手腕を振るった過去を持つ。

市場では加藤氏の起用を巡り、石破新政権の経済政策は「脱・アベノミクス」ではないとのメッセージを送る狙いがあったのではないかとの観測が出ている。自民党の総裁選に立候補した加藤氏は選挙期間中、「アベノミクスを推進した精神が私に染みついている」などとアピールしてきた。

27日午後に石破氏が新総裁に選出された後、金融市場では為替が円高に振れ、日経平均先物が下落した。アベノミクスを引き継ぐことを明言していた高市早苗経済安保担当相の総裁就任を織り込んでいた投資家が、それまでのポジションを一気に巻き戻した。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは、「解散総選挙前に緊縮財政や金融引き締めの印象を払拭することが狙いだったのではないか」と加藤氏の財務相起用をみる。「自民党総裁として石破氏の最初の仕事は、総選挙に勝利することだ。アベノミクスには国政選挙6連勝の実績がある」と語る。

石破氏は選挙期間中、日銀の金融政策については中央銀行の独立性を尊重する考えを示してきた。金融所得課税の強化にも言及して物議をかもした。

しかし、27日夜に出演した民放の番組では「必要であれば財政出動はする。金融緩和基調というのは基本的に変えることはしない」と述べ、市場の反応を気にする様子が伺えた。金融課税の強化についても「貯蓄から投資への流れはこれから先も推進しなくてもならない」と軌道修正した。

ただ、加藤氏に対しては「アベノミクス一辺倒とは言えない」(野村総研の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト)との見方もある。「選挙の時にはやはり旧安部派の票を得る狙いもあってそういう発言になったが、もともと保守色の強い人と言えない」と木内氏は言う。

27日の金融市場の動きは「高市トレード」の巻き戻しとみられていたが、週明け30日も日経平均は2000円近く下落して大引けした。

政治評論家の伊藤惇夫氏は、「基本的な路線としては緩やかに(正常化に)変えていくのではないか」と石破政権の経済政策を予想する。「石破政権の意思というのを当然受けた上での入閣だろうから、石破政権の方針に逆らった経済政策を加藤氏がやるとは思えない」と話す。

<「賃上げ定着」へ正念場>

一方、足元は総選挙に向けた経済対策の策定が急務となる。補正予算でどう裏付けるかが加藤新財務相にはまず求められる。賃上げや所得向上に向けた環境整備に加え、能登半島地震からの復旧・復興や豪雨被害への対応では課題が残る。

ただ、補正での追加歳出を膨らませれば、25年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を黒字化させる財政目標に影響しかねない。経済成長と財政健全化をいかに両立させるか、加藤氏の手腕が問われる。

物価高に負けない賃上げ定着を巡り、円の先高観にどう対処するかも課題となる。日米金利差の縮小観測を受けた円安反転の流れは物価の上昇圧力を和らげそうだが、逆に、円高ピッチが強まれば企業収益を下押ししかねない。

年初からの円安以上に円高のテンポは速い。ピーク時との比較では7カ月で約20円、円安に振れたのに対し、直近2カ月では逆に20円円高に振れた。今後の動向次第で「為替変動による損益影響は24年10―12月期以降、前年比でマイナスになる」(ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済調査部長)との見方がある。

企業収益の動向は、賃上げモメンタムに影響する恐れもある。

デフレからの完全脱却を巡り、政府は次年度以降も5%以上の賃上げを実現する構えだが、歴史的な賃上げをけん引した大企業製造業への逆風は「全体の賃上げ率を3%台まで鈍化させかねない」(みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・主席エコノミスト)との声がくすぶる。

11月にかけ公表される業績見通し次第で、今後の労使交渉に影を落としかねず、物価高に負けない賃上げを定着させられるかは正念場を迎える。

(山口貴也、杉山健太郎 取材協力:梶本哲史 編集:久保信博)

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