ニュース速報

ワールド

焦点:コメと自動車、日米反対勢力が抵抗 TPP妥結後見越す動きも

2015年07月30日(木)10時08分

 7月30日、TPP参加12カ国が大筋合意に向け最終局面を迎えるなか、自民党農林族による政府をけん制する動きには、妥結後の国内対策をにらむ姿勢も垣間見える。鹿児島県で8日撮影(2015年 ロイター/Issei Kato)

[東京 30日 ロイター] - 「TPP(環太平洋連携協定)交渉の結果次第では、来年夏の参院選でしっぺ返しをくらう」──。28日からのTPP閣僚会合に先立つ22日朝、自民党本部ではTPPに慎重な自民党議員たちから、政府に対し厳しい注文が相次いだ。「会合は、近年になく盛り上がった」と、ある業界団体関係者は話す。

TPP参加12カ国が大筋合意に向け最終局面を迎えるなか、自民党農林族による政府をけん制する動きには、妥結後の国内対策をにらむ姿勢も垣間見える。

<コメ輸入枠拡大規模、日米閣僚の政治決着へ>

国会が聖域として守るよう決議した「重要5品目」(コメ、牛肉・豚肉、小麦、乳製品、砂糖)。その中でも特別な意味を持つのがコメ。1キロ341円の高関税を維持する代わりに、無関税の特別輸入枠を設定し、その量をめぐって大詰めの日米間交渉が続いている。

甘利TPP担当相は、米国が17万5000トンを要求し、日本側は5万トン未満と主張していることを認めたうえで、21日の会見で「足して2で割る解決策にはしたくない」と語った。月末の日米閣僚会合で、政治決着を図って一気に妥結したい意向とみられる。

仮に8万トン程度の輸入枠設定で決着した場合、年間生産量840万トンと比べると1%に満たず「壊滅的なダメージにはならない」(農業団体関係者)との見方もある。

ただ、コメの消費量は年間約8万トンずつ減少し、価格も下落しているため、甘利担当相は「輸入を拡大することは、相当なインパクトがある。市場価格にダメージを与えないよう苦労している」と日本側のスタンスを説明した。

<廃業に追い込まれる養豚業者も>

牛肉・豚肉は、関税が引き下げられ、国産肉の価格も低下しそうだ。牛肉は関税38.5%を15年程度かけて9%まで下げる方向で調整されているもよう。日本産牛肉のかなりの部分はすでに高級ブランドとして地位を獲得しており、影響は限定的と見る向きもある。

一方、豚肉の生産者には、かなり打撃になるとの予想が出ている。豚肉は安い肉に対する1キロあたり482円の関税を10年程度かけ50円程度に引き下げる方向で交渉されている。

国産豚肉に占める「銘柄豚」は3割に過ぎず、残り7割は国内価格の4割程度の価格で豚肉が輸入されることによって、養豚業者の打撃が大きくなると予想されている。日本養豚協会の志澤勝会長はロイターのインタビューで「半数くらいの養豚業者が、廃業に追い込まれるのではないか」と述べた。

<自動車業界への影響は軽微>

米国側の重要品目になっているのが、自動車・自動車部品。日本が関税の即時撤廃を求めているが、自動車労組の圧力を受けるオバマ政権は、撤廃時期の先延ばしを図る。

ただ、自動車業界へのプラス効果は軽微との見方が大勢だ。部品の関税撤廃(大半が2.5%)は日本勢にとって歓迎されるが、部品も含め完成車の現地生産が主流となっている中、輸出の大幅増は考えにくい。

撤廃分が単純に利益に結び付くよりも、為替変動リスクや品質問題などに備えたコスト吸収余地と捉える向きも多い。

日本は米国に対して輸出額の多い部品を中心に関税撤廃を求めている。米国が自動車本体に課している関税(乗用車2.5%、トラック25%)は事前協議で、妥結した全品目の最長期間での撤廃が決まっており、実際には10年超の長期間かけて撤廃となる見込み。

日米間の「コメと自動車」の関税交渉について、キヤノングローバル戦略研究所・研究主幹の山下一仁氏は、コメの輸入枠拡大と自動車の関税撤廃は、ともに両国経済にそれほど大きな影響はないと指摘。「日本は農産物の関税をゼロにするかわりに自動車も即時撤廃、という交渉をしたほうがよかった」との見方を示した。

同氏はTPP交渉自体について「最初は野心的な21世紀型の協定を作るはずだったが、保護主義的な反対勢力によって日米とも後退し、レベルの低い協定になってしまった」と批判している。

<TPP反対派、最終局面にらみ政府に圧力>

22日に開かれた自民党「TPP交渉における国益を守り抜く会」は、約110人を集め、安易な譲歩に反対する決議文を採択、23日安倍首相に手渡した。

23日には日本養豚協会が国会内で「TPP交渉から我が国の養豚を守る決起大会」を開き、国会決議の順守を政府に訴えた。

こうした動きは、交渉妥結後の国内対策をにらんでいるとの見方もある。コメの輸入を容認した1993年のウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)合意後は、6兆円超の国内農業対策費が計上された。

今回も「実際に打撃を受ける農家に対しては、それなりの対策を考えてもらう必要がある」(養豚業界関係者)との声が強く、予算獲得に向けた動きが活発化しそうだ。

(宮崎亜巳、白木真紀 編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、レバノン空爆続行 ヒズボラはモサド狙い

ワールド

ロシア政府、ウクライナ東部の戦況「前向き」 軍は2

ワールド

ドイツ緑の党、共同党首が辞任 選挙敗北で引責

ワールド

司令官が殺害されてもヒズボラは屈せず=イラン最高指
MAGAZINE
特集:羽生結弦が能登に伝えたい思い
特集:羽生結弦が能登に伝えたい思い
2024年10月 1日号(9/24発売)

被災地支援を続ける羽生結弦が語った、3.11の記憶と震災を生きる意味

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    メーガン妃に大打撃、「因縁の一件」とは?...キャサリン妃御用達デザイナー「移籍」で選択肢ゼロに
  • 2
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感...世界が魅了された5つの瞬間
  • 3
    まさかの「ハリス不支持」...130万人からなる「あの巨大労組」が異例の声明、大統領選への影響は?
  • 4
    先住民が遺した壁画に「当時の人類が見たはずがない…
  • 5
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 6
    中国「愛国ビジネス」暴走、日本人襲撃...中国政府は…
  • 7
    中東は全面戦争に突入寸前、レバノンは「もう一つの…
  • 8
    「大統領選敗北なら2年以内にイスラエル消滅」トラン…
  • 9
    レザーパンツで「女性特有の感染症リスク」が増加...…
  • 10
    「ゾッとした」「未確認生物?」山の中で撮影された…
  • 1
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感...世界が魅了された5つの瞬間
  • 2
    がん治療3本柱の一角「放射線治療」に大革命...がんだけを狙い撃つ、最先端「低侵襲治療」とは?
  • 3
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に高まる【新たな治療法】の期待
  • 4
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 5
    世界で最も華麗で高額な新高層ビルに差す影
  • 6
    浮橋に集ったロシア兵「多数を一蹴」の瞬間...HIMARS…
  • 7
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 8
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 9
    メーガン妃に大打撃、「因縁の一件」とは?...キャサ…
  • 10
    レザーパンツで「女性特有の感染症リスク」が増加...…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 5
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 6
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 7
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 8
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 9
    「ローカリズムをグローバルにという点で、Number_i…
  • 10
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中