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焦点:ドル急変に追われる日本の輸出企業、組織改変やヘッジ多様化

2025年04月23日(水)08時24分

 為替市場の急変に機動的に対応できるよう、日本の輸出企業が組織や決済権限の変更を議論する動きが加速している。写真は、米国の100ドル紙幣と日本の1万円札。2013年2月、東京で撮影(2025年 ロイター/Shohei Miyano)

Atsuko Aoyama Miho Uranaka

[東京 23日 ロイター] - 為替市場の急変に機動的に対応できるよう、日本の輸出企業が組織や決済権限の変更を議論する動きが加速している。特に、米関税が直撃する自動車や半導体の業界で顕著だとの指摘も聞かれる。トランプ米大統領はドル安志向とみられ、先行き円高傾向が続くとの見通しの下、少しでも利益の減少を食い止めようと為替予約にも工夫を凝らす。

<為替実務に柔軟化の動き>

年初から20円近く進む円高に利益を削られる輸出企業にとって、具体的な対応が急務だ。ある邦銀関係者によると、社長をトップとするプロジェクトチームを立ち上げ、これまで財務部門を中心に行われてきた為替対応の検討を、経営層を巻き込んで全社的な議論に広げつつある企業も少なくない。今後の円高進行時の採算と事業への影響を危惧する企業が増加しているという。

複数の邦銀関係者によると、為替リスクへの対応としては主に、これまで海外の現地法人に委ねてきた為替予約の機能を本社に統合することを話し合う動きも出てきている。自動車や半導体など関税の影響が直撃する分野で、特に活発化していると、1人の邦銀関係者は話す。

三菱UFJ銀行トランザクションバンキング部グローバル財務戦略グループの増田典昭次長は「大幅な為替変動に伴う差損・差益が地域ごとに相違する状況になると、企業の地域・事業別採算に影響が及び、商流の再編や値上げなどの対応を迫られるケースも出てくるかもしれない」と指摘する。

米関税の行方次第で「輸出数量も大きく影響を受ける可能性があり、ドル/円相場のボラティリティーが高い中、特に貿易取引に携わる実務担当者は難しいかじ取りを迫られる」と、ニッセイ基礎研究所の上野剛志・主席エコノミストは話す。

<ヘッジニーズの高まり>

為替変動リスクをヘッジするための先物やオプションの商品への関心も高まってきているとの声もある。

「ドルの先高観が支配していた局面とは企業の為替予約行動が変わってきている。まさに転換点といえる」と、貿易実務に詳しい市場関係者は話す。

コロナ禍以降、ここ数年の米国の利上げ局面では、ドル高/円安の基調が続いてきた。ドルを調達する必要のある輸入企業は少しでも安くドルを調達しようと、きめ細かな為替ヘッジを余儀なくされてきた一方、ドル売り/円買いが中心の輸出企業は、資金繰りさえつくなら、慌ててヘッジに動く必要はなかった。

ところが、米国の政策の不透明感が強まってドル安/円高が進んだことで輸出企業にとってもヘッジのニーズが急速に高まっている。1人目の邦銀関係者によると、機動的にヘッジ商品の決済ができるよう、これまで社長や最高財務責任者(CFO)レベルにしか認められていなかった複雑なヘッジ商品の決済を、財務部長や執行役員で対応できるよう権限の変更を検討する動きも出ている。

実際、一定の価格に到達すると権利が消失するノックアウトオプションやレバレッジを効かせた取引など、通常の為替予約とは異なる商品を検討する企業も出てきたと、別の邦銀の為替セールス担当者は明らかにする。

円高継続か、円安への巻き戻しか、先行きが見通しにくい中で企業は今後のさらなる状況悪化を見越して対応を急ぐ一方、先行して動いて方向感が違っていたという悪手も打てないジレンマも抱える。

<「あきらめのフロー」で円高加速も>

足元では、ドルを売り遅れた輸出企業から、安値でもドル売りを出す「あきらめのフロー」も出始めていると、前述の邦銀の為替セールス担当者は話す。

りそな銀行資金証券部市場トレーディング室の広兼千晶氏も、相場急変時の対応として勧めている指し値注文について、ドルの先安観が台頭する中で「これまであまり注文を置いていなかった輸出勢からの注文が増えてきている」としている。

「少なくとも140円台」(邦銀のセールス担当者)でのドル売りに焦りがみられ始めた一方、相場が反発する可能性もあり「140円を下回って明確に下落トレンドを形成するまで見極めたい企業も残っている」(同)のが現状という。

トランプ政策の不透明感が長引けば、いずれ実体経済への悪影響への懸念が強まりかねない。春先からの円高局面で売り遅れた輸出企業は少なくないとみられる。「ドルの先安観が一層強まって、手元のドルを円転する企業の動きが加速すれば、ドル安/円高のモメンタムは一段と強まる」と、ニッセイ基礎研の上野氏は話している。

ロイター
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