FRB高官、トランプ関税にらみ早期利下げに慎重姿勢

米連邦準備理事会(FRB)政策担当者らは、トランプ大統領の貿易政策が経済に打撃を与える可能性を懸念しつつも、関税引き上げがインフレを加速させるとみられるため、早急に利下げに動く意思はないとしている。2022年1月撮影(2025年 ロイター/Joshua Roberts)
Howard Schneider Ann Saphir
[9日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)政策担当者らは、トランプ大統領の貿易政策が経済に打撃を与える可能性を懸念しつつも、関税引き上げがインフレを加速させるとみられるため、早急に利下げに動く意思はないとしている。
米セントルイス地区連銀のムサレム総裁とミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁はともに、関税による物価上昇を中銀が一時的なものとして扱うことは「リスクが高い」と指摘。インフレの長期化につながり、金融引き締めが必要となる可能性への懸念を表明した。
同時に、両氏とも成長の減速が失業率を上昇させる可能性を懸念している。FRBは本来であれば金融緩和でこの状況に対処したいと考える局面だ。
このシナリオは、FRBに物価安定と雇用の最大化という2大責務のうちどちらを重視するかという選択を迫る可能性がある。
これは、パウエルFRB議長をはじめとする政策担当者が最近の発言で強調してきた点であり、特にトランプ大統領が4月2日に投資家やFRB当局者の予想をはるかに超える関税を発表して以来、その傾向は顕著になっている。
FRBがこの日に公表した3月18─19日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨によると、米経済は高インフレと成長鈍化が同時に起こるリスクに直面しているとの見解でほぼ一致していたことが分かった。
リッチモンド地区連銀のバーキン総裁はワシントンのエコノミック・クラブで「本当に濃い霧の中を運転しているとき、絶対にしてはいけないことが2つある。ひとつは、前に誰がいるかわからないからアクセルを踏むこと。もうひとつは、後ろに誰がいるかわからないからブレーキを踏むことだ」と語った。
しかしバーキン氏が聴衆の質問に答えている間に、状況は再び大きく動いていた。トランプ氏が貿易相手国に対する相互関税について、国・地域ごとに設定した上乗せ部分を90日間停止すると発表。米国株は急騰し、金融市場はFRBによる積極的な利下げへの期待を後退させた。
このトランプ氏の急転回は、FRBの政策担当者らがここ数週間繰り返し強調してきたもう1つのメッセージを強調するものとなった。トランプ政権の実際の政策は言うまでもなく、その影響についても非常に不透明なため、FRBは完全に様子見姿勢をとっているということだ。
<トレンドを下回る成長>
それでも、バーキン氏や他のFRB当局者が述べたように、新政権の政策の方向性は明確だ。たとえ目的地が明確でないにせよだ。
政策担当者が選択肢を模索する中で、深刻な景気後退や失業率の急上昇を伴わずにインフレが鈍化するソフトランディングへの明確な道筋は見えていない。そのシナリオは昨年、達成間近だと思われていた。
ムサレム氏はロイターとのインタビューで、企業や家計が新たな輸入関税による価格上昇に適応するにつれ、経済成長はトレンドを「大幅に」下回り、失業率は上昇する可能性が高いとの見通しを示した。その上で、金融政策の対応は、今後数カ月のインフレ率と失業率の推移、価格ショックが持続するかどうか、さらにインフレ期待がFRBの2%のインフレ目標と整合的かどうかに左右されると述べた。
一方、カシュカリ氏は「関税により、政策金利を何らかの形で変更するハードルが高まった」と指摘。関税により短期的にインフレが押し上げられる可能性を考慮すると、経済の鈍化や失業率の上昇がある中でも利下げに動くハードルはより高くなる。一方、関税によって投資が落ち込み政策が自ずと引き締め方向に向かう可能性があるため、金利を直ちに引き上げる必要性も低下している」と述べた。