アングル:トランプ関税発動前夜、米国では一部で「買いだめ」の動きも

4月8日、 米ニューヨークのマンハッタンに近いニュージャージー州シコーカスにある小売り大手ウォルマート店舗では、トーマス・ジェニングスさん(53)が、ジュースや調味料など、思いつく限りのあらゆるものを買い込んでいた。シコーカスのウォルマートで3日撮影(2025年 ロイター/Siddharth Cavale)
[シコーカス(米ニュージャージー州) 8日 ロイター] - 米ニューヨークのマンハッタンに近いニュージャージー州シコーカスにある小売り大手ウォルマート店舗では、トーマス・ジェニングスさん(53)が、ジュースや調味料など、思いつく限りのあらゆるものを買い込んでいた。
「豆、缶詰、小麦粉など、何でも2倍買うことにした」と、ジェニングスさん。
彼の戦略は、トランプ政権の新たな輸入関税が9日に発動する前に、できるだけ多くの物資を備蓄することだ。ウォルマートに来る前には、会員制倉庫型量販店のコストコの店で小麦粉、砂糖、水を大量に購入した。「景気後退が近づいている。最悪の事態に備えたい」と、ため息をついた。
ジェニングスさんのように、トランプ氏の関税のせいで小売価格が上昇すると考える消費者は増えている。
非党派の非営利研究団体のタックス基金は、新たな関税により今後10年間で米国人の負担が3兆1000億ドル増え、2025年だけでも1世帯当たり約2100ドルの増税になると試算している。
多くの消費者は様子見の構えだが、ちょっとでもパニックが起これば買いだめ競争が起き、インフレの悪化懸念がさらに高まる可能性があると話す人々もいた。
ロサンゼルス郊外のサプライチェーン管理会社GCGの創業者マニッシュ・カプーア氏によると、今回の関税で、新型コロナのパンデミック期のように店の棚が空になるのではないかという懸念が再燃しているという。当時は供給網の混乱で商品不足とインフレが起き、一部の商品が店先から消えた。
「コロナ禍の時も、必要かどうかに関わらず、誰もが必死になって店の棚にあるものすべてを買っていた。今回はそこまでではないが、人々はモノの価格が上がることを心配しており、買いだめをしなくては、となっている」と、同氏は話した。
ウォルマートとコストコはコメントの要請に即座には応じなかった。
衣料品業界で長年働いていたというアンジェロ・バリオさん(55)は、トランプ氏の「水を濁らせて混乱を引き起こす」戦術が、経済の方向性について彼や友人を不安にさせていると話した。
バリオさんは小売業者が関税コストを消費者に転嫁することを懸念し、11月から賞味期限の長い商品を買い始めたという。
コストコでは今週、歯磨き粉とせっけん、水、コメを買った。自宅の温度管理された地下室には、すでに缶詰がたくさん入った6つの収納容器があるが、それがいっぱいになった。
ウォルマートでバリオさんはさらにオリーブオイルを2本購入し、備蓄は合計20本になった。「どれだけ必要になるか分からない」と、彼は話した。
<対中関税>
バリオさんは中国に同情的だ。トランプ氏は7日、中国が米国に対する報復関税を撤回しない場合、50%の追加関税を課すと表明した。
「彼らは何の落ち度もないのに、ただ罰せられている。中国がこんなに安い価格で商品を提供してくれることに、私はこれまでずっと満足してきた」と、バリオさんは話した。
ニュージャージー州ノースバーゲンのウォルマートで買い物をしていた60代半ばのマギー・コリンズさんは、トランプ氏の関税とそれが高齢者に与える影響が心配で「恐怖で震えている」と話した。
コリンズさんはシャワージェルや衛生用品などをカートに詰め込んだ。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)やユニリーバなどの大手の製品よりも、より安価なウォルマートのブランドを選んでいるという。
「私は年金暮らしなので、すべての値段を注意深く見ている」と、高齢者施設で介護助手として働くコリンズさんは言う。「どこかで高い料金を支払えば、他の予算を調整しなければならなくなる」
コリンズさんは最近、孫たちのために料理しようとひき肉を買いに地元スーパーを訪れたが、いつも買っている肉を買うと3ポンド(1.36キロ)で16ドルになるため、代わりに8ドルの肉を買わざるを得なかった。
若い世代はどうやって対処していくのだろうか、とコリンズさんは危ぶむ。「彼らは生き残るのが難しくなったこの世界に、ようやく出ていくところなのに」
一方、コロラド州ロングモントにあるSUBARU(スバル)のディーラーでは、ここ数週間で売り上げが急増している。ゼネラル・セールス・マネージャーのニック・チュエンチット氏は、売り上げの急増のどの程度が4月3日に輸入車に課された25%の関税に対する懸念に影響されたものかは分からないと話す。
「顧客は関税について話題にするし、質問してくる。車の購入を考えていた顧客の中には、関税の話があったので、前倒しで購入した人は確かにいると思う」と、チュエンチット氏は話す。
チュエンチット氏は、2008年の不況後とパンデミック中に自動車を販売していた頃を思い出し、楽観的だった。
「このビジネスは回復力がある。自動車販売業は常にあった」と、チュエンチット氏。「関税があっても、人々は自動車を買うだろう。ただ、その負担は増える」