ニュース速報
ビジネス

焦点:韓国大統領選、トランプ関税への対応が焦点に

2025年04月07日(月)18時30分

 4月4日、 韓国は尹錫悦大統領が罷免されたことを受け、大統領選が60日以内に実施される。写真は5日、ソウル市内で米国と韓国の旗を掲げる尹氏の支持者(2025年 ロイター/Kim Soo-hyeon)

Cynthia Kim Hyunjoo Jin Josh Smith

[ソウル 4日 ロイター] - 韓国は尹錫悦大統領が罷免されたことを受け、大統領選が60日以内に実施される。トランプ米大統領が発表した輸入関税強化に韓国がどう立ち向かうのかが今後の焦点となる。

アジア4番目の経済大国であり、米国の同盟国である韓国の大統領代行を務める韓悳洙首相は、輸出に大きく依存する韓国にとって大きな打撃となる米国の関税強化への効果的な対応策を打ち出せずにいる。

米首都ワシントンのシンクタンク、新アメリカ安全保障センターのドゥヨン・キム氏は「韓国政府は今後2カ月間、トランプ氏の矢継ぎ早な決断に適切に対応することができず、重要な外交政策課題に関して米国と協調することもできないため、韓国の国家安全保障と経済安全保障に重大な影響が出かねない」と指摘した。

尹大統領を罷免する憲法裁判所の決定を受け、大統領選の最有力候補になると目されている最大野党「共に民主党」の李在明代表は「大同団結の精神で、瓦解した生活、平和、経済、そして民主主義を立て直す」と訴えた。

共に民主党のある関係者によると、李氏は数日以内に代表を辞任して大統領選への出馬を表明する見通しだ。共に民主党は争点として「国民の生活に焦点を当てることになる」と説明した。

保守系与党「国民の力」(PPP)の国会運営を取り仕切る権性東氏は、李氏について「危険」と批判。経済の逆風を克服するために最善を尽くす必要があるとし、「世界で関税戦争が起きている今、わが国の経済は非常事態にあり、国民経済も深刻な状況にある」と警鐘を鳴らした。

経済成長を支えることは政府にとって重要な関心事であり、次期大統領はトランプ政権による関税強化の動きに効果的に対応する必要がある。

トランプ氏は新たな貿易政策の一環として、韓国からの輸入品に25%の「相互関税」を課すと発表した。韓国経済は貿易に大きく依存しており、自動車や半導体といった主要分野が関税強化の打撃を受けることになる。

尹氏による非常戒厳に端を発した政治的混乱と、3月に発生した過去最悪の山火事が響いて個人消費は低迷しており、米国の関税強化の動きは追い打ちをかけた。

<大統領選後の対応>

韓国企画財政省は3月30日、山火事の被害への対応と米国への輸出品への関税による経済への悪影響を緩和するために10兆ウォン(69億7000万ドル)の補正予算を提案した。この金額は、李氏が2月に提案した30兆ウォンよりはるかに少ない。

延世大の文正仁氏は、大統領選の期間中はどの政党の候補者も米国との同盟関係の支持を表明し、トランプ氏への批判を控える一方で、選挙後はトランプ氏を懐柔したり、米国に代わる貿易相手国を探したり、他の措置を講じたりといったより具体的な措置を取るとの見方を示した。

22年の大統領選で尹氏に僅差で敗れた李氏は、汚職など複数の裁判を抱えている。産業界関係者の一部は、リベラル派の急先鋒である李氏は尹氏ほど産業界寄りではないとみている。

リスクコンサルタント会社、コントロール・リスク・グループのディレクター、アンドリュー・ギルホルム氏は、李氏を支持しない有権者は依然多く、保守系政党が信頼される候補者を擁立できれば優位に立つ可能性があると指摘。その上で「保守系がどのようなポジションを取るかによって大きく左右されることになると思う。尹氏からどれほど距離を置くことができるかにかかっている」と語った。

尹氏の罷免が韓国に分断をもたらしたため、韓国は短期的には以前にも増して二極化が進むだろう。それでも韓国外国語大学校のメイソン・リチー教授は、PPPは罷免決定を公式に受け入れる姿勢を取ってきたとして「共に民主党にも罷免決定を大らかに受け止め、過剰に主張することなく、融和的なメッセージを発しようとすることへの強い責任がある」と言及した。

経済アナリストらは罷免決定で不確実性が解消されたことをおおむね歓迎し、金融市場の反応も限られた。

BNPパリバ韓国市場調査部長のソ・ウンジョン氏は「4日の最大の収穫は、韓国が2カ月後に選ばれる指導者と一緒に何かができるという希望を持ったことだ」と話した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、日鉄のUSスチール買収巡り再審査を指示

ワールド

米大手行幹部、商務長官と会談 相互関税発表翌日に協

ワールド

約50カ国が米に接触、関税巡る協議に向け=USTR

ビジネス

情報BOX:世界の大手企業、関税の影響にらみ米事業
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    フジテレビが中居正広に対し損害賠償を請求すべき理由
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 10
    反トランプのうねり、どこまで大きくなればアメリカ…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 7
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 8
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 9
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中