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アングル:トランプ関税の衝撃限定、自動車対象でも 織り込み進む日本株

2025年03月27日(木)18時01分

 トランプ関税で最も警戒されていた自動車が対象になったことで、日本株は関連株中心に売られた。写真は、東京証券取引所。1月6日、東京で撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)

Noriyuki Hirata

[東京 27日 ロイター] - トランプ関税で最も警戒されていた自動車が対象になったことで、日本株は関連株中心に売られた。ただ、市場への衝撃度はさほど大きくなかったとの見方もある。4月2日に見込まれる相互関税の発表を控え警戒感はくすぶり続けているが、相場への織り込みは進んでいるとして、底割れ懸念は後退してきている。

トランプ米大統領の自動車関税方針を受けて、27日の東京市場では日経平均が一時500円近く下落したが、下値では打診買い的な動きもみられ、一方的に売り込まれる展開にはならなかった。市場全体の動きを示すTOPIX(東証株価指数)は逆に上昇して大引けた。

これまでトランプ氏は、メキシコ、カナダ、中国への関税や、鉄鋼・アルミニウムへの関税、自動車関税など、口にしたことを実行に移してきた。相互関税が実際に発表されれば、短期的にリスク回避の動きになる可能性は残る。ただ、市場ではそれがわかっていながら株価の下押しが限られた。

この点について東海東京調査センターの平川昇二チーフグローバルストラテジストは「関税リスクはいったん出尽くしとなり、減税などのポジティブな政策に思惑が向かうのではないか」とみている。

トランプ氏の発言前後で、米長期金利には大きな動きは見られなかった。平川氏は「景気が悪くなるなら金利はもっと下がってもおかしくない。実はあまり悪影響はないとの織り込みではないか」とも述べた。

   <日本車は「勝ち組」の思惑>

   過去の相場の値動きからも、底入れが近いとの見方を示す声もある。大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリストは、12日に実施された鉄鋼アルミの追加関税のケースでは、グローバルの主要な鉄鋼株が11日に当面の安値を形成した点に着目する。2018年の貿易戦争時にも、最初の鉄鋼アルミの輸入制限時が日経平均の底値となったと指摘し「米国での生産が拡大したことで景況感が上向いた」ことが背景にあるとの見方を示す。

   足元でも、米国では既に自動車中心に鉱工業生産が急増している上、米国では10年程度の自動車買い替えサイクルが到来しているとの見方から「販売台数が減るとは考えにくい。かねてから米国での現地生産を進めている日本車メーカーは、勝ち組に入るだろう」と大和の木野内氏は見通す。

<「鬼の居ぬ間」の株高再開も>

一方、インベスコ・アセット・マネジメントの木下智夫グローバル・マーケット・ストラテジストは、相互関税のインパクトに身構えており「日本の関税率は相対的に低いが、対日の米貿易赤字額が大きいことが見過ごされるとは想定しにくい」と話す。例えば中国に高関税が課される場合、日本企業による中国からの輸出に影響するリスクなど、複数の経路からのリスクも想定されるという。

米国でも、アンケート調査などを集計したセンチメント(心理)系の「ソフトデータ」が先行して弱くなってくると木下氏はみており「早ければ4─6月には市場の楽観的な見方は後退してきかねない」との見方を示す。

マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストは、トランプ関税のリスクはいったん出尽くしになるとみる一人だが、高関税の悪影響が、小売売上高など実際の経済活動の結果を集計した「ハードデータ」に現れてくるようなら「話は異なってくる」と話す。

もっとも、相互関税の発表をこなせば「鬼の居ぬ間」の株高が再開するとの見方もある。関税引き上げのハードデータへの悪影響が出てくる場合でも、数カ月先になるとみられることから「4─6月には、米株は最高値付近に向けた買い戻しはあり得る」と東海東京の平川氏は予想する。日本株もつれ高となり、4万1000円程度への上昇余地はあるという。

それでも、グローバルマネーに日本株が積極的に選好されるとまではみられていない。財政規律の緩和に動く欧州、政策テコ入れ期待やディープシークの台頭に沸く中国と異なり「政治は無策、金融政策は利上げ方向で、株高のカタリストに欠ける」(マネックスの広木氏)ためだ。

内閣支持率の低下が伝わる中、夏には参院選を控える。「政治が変われば金融政策もつられて変わる。それが一つのチャンスかもしない」と、マネックスの広木氏は話している。

(平田紀之 編集:橋本浩)

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