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アングル:好調な賃上げで「格差」浮き彫りに 消費に低迷リスク

2025年03月21日(金)18時53分

 3月21日、 今年の春闘は大企業の力強い賃上げの継続に加え、中小企業の健闘も目立つ。都内で2024年11月撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)

Kentaro Sugiyama

[東京 21日 ロイター] - 今年の春闘は大企業の力強い賃上げの継続に加え、中小企業の健闘も目立つ。好調な滑り出しとなる一方、企業規模や地域、世代間の格差という課題も浮き彫りとなっている。石破茂政権は政策総動員で後続企業の賃上げを後押しする構えだが、食料品など身近な商品の価格が高止まり、少なくとも年前半は消費の低迷が続く可能性も指摘される。

連合が21日に発表した春闘の2次集計によると、ベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率は加重平均で5.40%。1991年の5.66%(最終集計)以来34年ぶりの高水準を維持し、芳野友子会長も「企業規模にかかわらず高水準を維持しており、新たなステージの定着に向けて着実に前進している」との認識を示す。

自動車総連が20日に公表した直近の回答状況は、傘下組合の7割を占める300人未満の中小組合の賃金改善(ベア相当)が3.8%で、大手の3.9%と遜色のないものとなった。金子晃浩会長(連合副会長)は「絶対額こそ大手に及ばないが、その差自体は前年と比べて縮まってきている」と指摘。「これまでの規模間格差の拡大にいかに歯止めをかけるかを主眼に取り組んできたが、それをしっかり具現化できている」と評価した。

<中小企業のばらつき>

賃金動向について、これまでは大企業と中小企業の格差に目が行きがちだったが、ある経済官庁幹部は「これからは中小企業の中でのばらつきも意識することになる」と指摘する。

「今年5%の賃上げができるという企業もあれば、それは厳しいという企業もある。もともと中小企業の間にはばらつきがあったが、賃金と物価が動き始めたことで、その差がより鮮明になった」という。

帝国データバンクによると、24年に従業員の退職が原因で経営破たんする「従業員退職型」の倒産が過去最多の87件に達した。中小企業にも継続的な賃上げを検討する動きが広がってきた一方、収益力が乏しい企業も多く、25年も人材流出による「賃上げ難倒産」が増加する可能性が高まっているという。

日本商工会議所の小林健会頭は12日の政労使会議後、「中小企業と一口に言っても、その規模はさまざまだ」と指摘。「地方は95%が小規模事業者で、このへんの賃上げが進まなければ、地方の経済活力が低下する可能性がある」と懸念を示した。

<世代間の格差>

厚労省が17日発表した24年の賃金構造基本統計で年齢別の賃金増減率をみると、15─19歳の前年比4.9%増、20─24歳の3.5%増に対し、50─54歳は2.5%増と見劣りする。若手の採用意欲が高まる中、賃金の原資が若手に向かったとみられている。

春闘は基本的に労働組合の活動で若年層が中心になっていることもあり、中高年層を含めた全体の賃上げ動向は現段階で明確にみえないが、4月入社の新卒社員の初任給を前年度から引き上げると表明している企業も引き続き多い。

日商の小林会頭は「一番消費をする、あるいは必要に迫られて消費をしなければならない中高年層が非組合員になってなかなか(給料が)膨らんでこないという現実がある」と指摘。「初任給の引き上げもさることながら中高年の中間管理職にも手厚い賃上げをすべきだ」と強調した。

<即効性ある処方箋なく>

赤沢亮正・賃金向上担当相は18日の参院予算委員会で「現時点で賃上げが十分とは思っていない」との認識を示し、企業の生産性向上、適性な価格転嫁、事業承継やM&A(買収・合併)などの支援を通じて賃上げ原資確保の環境整備を行うと改めて説明した。

中小企業政策を所管する武藤容治経産相も、省力化投資や生産性向上支援策の活用・促進、公正取引委員会と連携した下請法改正など、さまざまなメニューを用意していると指摘。後続企業が賃上げを検討するタイミングを考慮し、3月末から4月にかけて業界団体に適正取引を要請するという。

とはいえ、これらの政策は、中小企業の賃上げへの即効性はあまり期待できなさそうだ。SBI新生銀行の森翔太郎シニアエコノミストは「省力化やデジタル化などの設備投資は人手不足の解消に貢献するが、この瞬間の賃上げに寄与するのは難しい」と指摘する。

この日発表された2月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、コアCPI)は前年比3.0%上昇と、3カ月連続で3%台。生鮮食品を除く食料が一段と伸び率を拡大した。

SBI新生銀の森氏は「期待を上回る賃上げとなった23年、24年も物価高の影響で消費が上向かなかったことを踏まえれば、25年も消費は楽観できない」と指摘。少なくとも25年前半は食品価格の高止まりがみえており、賃上げ効果が消費に波及するのは物価が落ち着いてくる25年後半にならないと難しいのではないか、と話す。

ロイター
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