アングル:調整局面入りの米国株、一段安の瀬戸際か

S&P総合500種株価指数は3月13日、直近高値の2月19日終値から10%以上落ち込んだ。2024年2月、ニューヨーク証券取引所で撮影(2025年 ロイター/Brendan McDermid)
Saqib Iqbal Ahmed
[ニューヨーク 13日 ロイター] - S&P総合500種株価指数は13日、直近高値の2月19日終値から10%以上落ち込んだ。広く使われる定義では2023年終盤以来、1年数カ月ぶりの「調整局面」入りとなった。先週、ハイテク銘柄主体のナスダック総合指数の調整局面入りが確認されたばかり。焦点は現在、一段と値を下げ「弱気相場」に落ち込む瀬戸際なのかどうかだ。
S&P総合500種の高値から安値へ10%以上の下落に伴い、時価総額の合計消失額は約5兆ドルに及んだ。これはウォール街がトランプ大統領の政策を概ね好感していた年初の時点から見れば激しい様変わりだ。以下に投資家に待ち受けていそうなものを見ていく。
<市場調整>
ロイターがヤルデニ・リサーチのデータを分析したところ、S&P総合500種は大恐慌が起きた1929年以降、調整局面は計56回あり、市場調整は珍しくはない。このうち22回は、直近高値からの下落率が20%以上に広がり「弱気相場」に転じた。これを回避できれば市場への影響は比較的小さい。
29年以降で弱気相場に突入した場合、高値から安値への下落率は平均35.6%に及んだ。調整局面全体では13.8%にとどまるが、調整局面は平均で115日間も続いた。今回の調整局面では既に22日が経過している。
<トランプ・プット消えたか>
トランプ政権はカナダやメキシコ、中国など主要貿易相手国に相次いで高関税措置を発動しており、投資家のリスク資産への投資意欲を削ぐ主要な要因となっている。通商摩擦の激化により、インフレ圧力が高まって経済成長の足かせとなり、ついには景気後退(リセッション)に陥る恐れがあるためだ。
投資家の不安を煽るのが関税を巡る先行き不透明感だ。いわゆる「トランプ・プット」(大統領が株式市場を支えるため手を尽くすという考え方)が消えたとの懸念につながっている。
<安全資産へ待避>
このため投資家は、市場のさらなる混乱に備え、伝統的な安全資産に資金を待避させている。受け皿となった円は今年に入って6.5%も値を上げた。日本の巨額な対外純資産と歴史的な低金利により、安全資産と見なされるためだ。一方で、ドルは幅広く売られている。
米株式市場でも、リスクの低いセクターに資金が移動し、S&P500種ヘルスケア指数は年初来で4.5%上昇し、主要消費財指数も1.3%値を上げている。
<企業も視界不良>
第2次トランプ政権の発足に伴い、政策が急速に変化しており、企業や消費者にとっても先行きの視界は不良だ。企業の設備投資や消費者支出を巡って警戒感が急速に広がっている。
例えば、デルタ航空は10日、第1・四半期の業績予想を下方修正し、利益見通しを従来の半分の水準に引き下げた。エド・バスティアン最高経営責任者(CEO)は理由として、米経済の先行き不透明感により経営環境が悪化したと述べた。
<広がる弱気派>
米個人投資家協会(AAII)の最新のセンチメント調査によると、米株価の短期見通しは悲観的な見方が、過去2年以上で最も高い。
ドイツ銀行のアナリストによる7日付ノートでは、機関投資家も並行する形で株式投資配分を大幅に減らしており、昨年8月以来となるアンダーウエート(めどを下回る水準)になった。
米株式市場で「恐怖指数」と呼ばれるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX指数)は29.57を付け、約7カ月ぶりの水準に切り上がった。これは長期的な中央値17.6を大きく超えた水準だ。
<見る影もなし>
大手ハイテク7社の銘柄群「マグニフィセント・セブン」は今年に入って以降、大幅下落しており、過去2年間の大半において市場の牽引役だった姿は見る影もない。投資家がリスク回避志向を強め、より安全な投資先を求めているためだ。
S&P総合500種が2月19日に過去最高値を記録した後、マグニフィセント・セブン銘柄を平均した株価は約17%下落し、その一角テスラは約33%も落ち込んでいる。これらハイテクセクターの巨大成長銘柄の株価下落率は、市場全体の下落率よりも大きくなっており、市場参加者は資金を引き揚げて投資比率を減らしている。今回の調整局面では、市場のけん引役が他のセクターに移る可能性がある。