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アングル:米消費者が自動車駆け込み購入、トランプ関税が背中押す

2025年03月12日(水)12時13分

現在平均で3カ月ほどの在庫を抱える米国の自動車販売店が提示する価格に、まだ関税の影響は見えていない。だが消費者を動かしているのは、不確実性の大きさだ。写真は、関税発動前にフィリップ・ホッジさんが購入を契約したメキシコからの輸入車、フォード「マスタング・マック」の電動車。2月12日、米ミシガン州の販売代理店で撮影されたホッジさんの提供写真(2025年 ロイター)

Nora Eckert

[デトロイト 11日 ロイター] - 米カリフォルニア州に住むマシュー・ミッチェルさんは、メキシコとカナダに対する25%の関税を発動するというトランプ大統領の考えは本気だと聞き、妻に今すぐ車を買うべきだと伝えた。

「よし、今週末に行こうという心境だった」と語るミッチェルさんは3月上旬にトヨタ自動車の2019年製「カムリ」の購入を契約し、関税絡みの値上げを回避しようとした。

ミッチェルさんのような「駆け込み購入組」がそろって口にするのは、トランプ氏による関税の脅しが自動車価格の大幅な値上げにつながるのではないかという懸念だ。

現在平均で3カ月ほどの在庫を抱える米国の自動車販売店が提示する価格に、まだ関税の影響は見えていない。多くの米国の自動車メーカーは、トランプ氏によって2回の発動猶予措置を講じてもらってもいる。

しかし消費者を動かしているのは不確実性の大きさだ。先週ロイターがエコノミスト74人に対して行った調査では、米国の関税政策がどうなるか読めないとの理由から、同国やカナダ、メキシコの経済が抱えるリスクが増大しているとの見方が示された。

カーズ・ドット・コムのアナリスト、デービッド・グリーン氏は、2月16-22日までの自社の自動車購入サイトの検索件数は前週比で9%増加したと説明。「2月初めに最初の関税についての発表があった際は、すぐには反応はなかった。だが関税が全輸入品を対象とし、輸入新車への関税は4月に先送りされたとの話が出回ると、サイトの検索件数が跳ね上がった」と述べた。

フォードの「マスタング・マック」の電動車購入契約をまとめたフィリップ・ホッジさんは、この車がメキシコから米国に輸入されることを知っていた。「くよくよ悩まず、すぐに買おうと思った」という。

販売店側も、数週間ないし数カ月の不安定な局面を乗り切れるだけの在庫を確保している。コックス・オートモーティブによると、2月の販売店の平均在庫は96日分で、年初時点から26%増加した。

一部の販売店は、短期的な不透明感は一種の商機だとみている。

ミシガン州ディアボーンでフォード車を販売するジム・シービット氏は、今月3日の週の売れ行きが非常に好調だったと振り返る。これは関税を巡る懸念というより自身が進めていた商談の成立が寄与したためだが、それでも「消費者は関税の情報を聞きつけ始めており、恐らく当店の在庫を買いたくなるだろう」と期待する。

関税をセールストークに盛り込む販売店も出てきた。コネティカット州のあるスバルの販売店は、ウェブサイトの広告画面トップに「2024年モデル最後のクリアランス価格。関税が価格を押し上げる前に節約しよう」との見出しを掲げた。

コックス・オートモーティブによると、既に自動車価格は新型コロナウイルスのパンデミック以降手が届きにくい方向に変化しており、今年1月の平均販売価格は4万8641ドルと2019年1月の3万7348ドルから切り上がっている。

こうした中で一部の消費者は、トランプ氏が大統領選に勝利した昨年11月直後から、関税発動への警戒心を抱き始めた。

オハイオ州クリーブランドで暮らすサウド・アンサリさんは「11月上旬に『関税について真剣に受け止めるべきだ』と思った」と述べ、トランプ氏の大統領就任直前にトヨタ自動車の2025年製「シエナ」の購入契約を終えた。

トランプ氏は2月に表明した関税を3月まで1カ月猶予し、さらに「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の原産地規則を順守する自動車にはさらに1カ月発動を先送りした。

しかしアンサリさんにとっては関税の脅威や、金利上昇懸念が十分な購入動機になったようで、とにかく先行きの不透明感が最大の理由だと強調した。

ロイター
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